2017年5月23日火曜日

伏線

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THE PAGE 2017.05.22 04:00
激闘王の八重樫が衝撃の1回TKO負けも「限界は感じていない」と引退否定
八重樫はまさかの165秒KO負けでベルトを失った(写真・山口裕朗)
“激闘王”IBF世界ライトフライ級王者の八重樫東(34、大橋)が20日、有明コロシアムで、暫定王者のミラン・メリンド(29、フィリピン)に3度のダウンを奪われて1回2分45秒にTKO負け、3度目の防衛に失敗した。165秒決着は、世界戦のライトフライ級史上最短となる屈辱の記録となった。負け方が衝撃的だっただけに、年齢面やこれまでのダメージの蓄積を考え引退も考えられるが、八重樫は「限界は感じていない」と引退は否定した。
 八重樫に関しては、3人いる同級の日本人世界王者への挑戦や、WBA世界フライ級王者、井岡一翔との再戦など、復帰の選択視は多くあるが、スーパーフライ級に上げて日本人初の4階級制覇を狙う可能性もある。何度も挫折から這い上がってきた八重樫は、十分に休養した後に、4度目の世界のベルトを狙うことになりそうだ。

 伏線があった。
 メリンドが放った左のボディアッパーが八重樫のミゾオチを襲う。
「最初は出入りの勝負するつもりだった」という八重樫の出足が、このボディ打ちで止まった。
 メリンドは「ボディを攻めることが戦略のひとつだった」という。続く打ち合いの中で、左のフックをモロにテンプルに浴びて最初のダウン。効いていた。
「一回目のダウンで決まったようなもの。まだ動けるつもりでいたけれど動けていなかった」
 陣営は、様子を見ながら回復を優先することを求めたが、八重樫の耳には届かない。激闘王の本能がそうさせたのだろう。立ち上がって、また攻めにいった。さらに左のアッパーをねじこまれて2度目のダウン。八重樫は、また立ち上がったが、左のジャブ、右のボディーから最後は飛び込んでくる右のストレートに顎を打ち抜かれた。倒れるようにダウンした八重樫は目がうつろ、もう肉体は操縦不能だった。
 試合のこと覚えている?
「覚えていますが、左フックをもらったのはうろ覚え。自分の実力がなかったということ。相手は強いと思っていたので、集中しようとしたけれど、こんなに早く終わるとは思わなかった。相手は、完成度が高い。厳しい試合になるとは思っていましたが、予想通りというか、予想以上だった。力のなさが出た試合だった」
 試合後、八重樫は、そう気丈に話した。試合が早く終わりすぎたせいか、皮肉にも、いつも腫れあがる顔は、綺麗なままだった。
 一方、ベルトを統一したメリンドも「こんなに早く終わると思わなかったが、最初の左フックで膝に来ているのがわかった」と意外な結末に驚いていた。
 34歳。「プロとして減量は仕事」と、八重樫は言い訳はしないが、実はライトフライのウエイトを作ることは難しくなっている。筋肉隆々の筋量の多い肉体を絞りこむのは、専門家に言わせると奇跡に近い作業。今回も、1週間前に体重は落ちなくなり、頭がフラフラして足に力が入らなくなった。貧血の一種で、サプリメントで、鉄分などを補給。結局、計量2日前にはリミットを切っていたが、ここまでの激闘を重ねたダメージの蓄積と、過酷な減量負担は、八重樫の何かを狂わせていたのかもしれない。
 大橋会長が「公開スパーを見たときに、これは強い相手だと思った」という元統一王者のエストラーダとフルラウンド戦ったほどの最強の暫定王者を迎え撃つには、仕上がりは物足りなかったのだろう。  

 さて気になるのは進退問題である。
「限界だとは感じない。そう思ったらそれまで。僕は、ずっと勝てている人間じゃないし、いろいろな山を越えてきて、また大きな山ができただけ。もうダメだとは思わない。どうすればいいかは人が決めることではないけれど、ニーズがあればやるでしょう。奮い立たせるものが残っていれば。
 新しくやりたいと思えるものがあってもやるだろうし、やりたいものがなければ、もういいかな、とスパッと辞めるかもしれない。日本人はやる、やめるの線引きを求めるけど、海外の選手は、やると言ったり、やめると言ったり、そういうの当たり前ですから。そのときに感じる気持ち次第」と、八重樫らしい表現で引退は否定した。
「ニーズ」の部分で言えば、前日、名古屋でWBO世界ライトフライ級王座を防衛した田中恒成が控え室を訪れて対戦を熱望。大橋会長の囲み取材では、WBA世界フライ級王者、井岡一翔の放映をしているTBSのディレクターが「井岡との再戦はどうか?」と質問するなど、“激闘王”“戦うお父ちゃん”として世間で認知度の高い八重樫の商品価値は落ちていない。大橋会長は「4階級制覇というのもあるからね」とスーパーフライに2階級上げて日本人初の4階級王者を狙う復帰プランも可能性のひとつとしてあることを口にしている。

 父の衝撃的な1ラウンドKO負けを観客席で見た小学生の長男は泣いていたという。
「現実の世界は難しい。努力したからと言って、報われないこと、うまくいかないことがある。そういうことを感じられる年だからね」
 だが、努力が報われる瞬間は必ずある。
 八重樫がそういう生き様を見せる気ならば、最後の再起という選択肢もありなのかもしれない。

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