2016年5月12日木曜日

被弾は目立ったが割れた以上には優勢だったように…

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猫ボク~拳論と猫論 2016.05.08
井上、八重樫、スッキリしない「判定防衛」
5・8東京・有明コロシアム「ボクシングフェス5・8」
 ▼WBO世界Sフライ級タイトルマッチ 12回戦
  王者・井上尚弥(大橋) 3-0 同級1位・ダビド・カルモナ(メキシコ)
   ※118-109、118-109、116-111
 ▼IBF世界Lフライ級タイトルマッチ 12回戦
  王者・八重樫東(大橋) 2-1 同級10位・マルティン・テクアペトラ(メキシコ)
   ※115-113、113-115、116-113
 ▼東洋太平洋Sフライ級タイトルマッチ 12回戦
  王者・井上拓真(大橋) 2回1分46秒TKO 同級5位・アフリザル・タンボレシ(インドネシア)
 ▼8回戦
  ビクトル・ウリエル・ロペス(メキシコ)  5回1分4秒TKO WBO世界バンタム級2位・松本亮(大橋)
  井上浩樹(大橋) 1回2分59秒TKO ビモ・ジャガー(インドネシア)

 ダブル世界戦は2試合ともスッキリしないものが残った。井上はラウンド早々に拳を負傷しフルラウンド、八重樫は低調な接戦。河野や田口の試合に続き、結果的に格下を攻略しきれない試合となってしまった。

井上は序盤で挑戦者との実力差を明白にさせたが、拳の負傷で攻撃が制限され、終盤に必死に見せ場を作る痛々しい試合となった。これを「拳の負傷でも圧倒して凄い!さすが怪物だ」と評する記者もいるが、まるでテレビインタビュアーレベルの楽天的な見方。ボクシングは拳が唯一の武器であるスポーツで、その負傷が相次ぐというのは大きな不安材料といえる。偉大なチャンプと比較にもならない余談だが、僕自身も格闘技生活の晩年、拳の負傷が慢性化。総合格闘技で寝た相手に力が逃げない状態で打つようになってから痛むようになり、長いときで8ヶ月間も週3の通院を経験した。治ったと思って練習上は問題なくても、試合中に一発目のヒットでまた激痛。それまで「拳を壊した」という話は他人事だったが、ハシやペンを持つこともできなくなり、「終わったな」と思った。僕の場合はパンチャーでもなく、単に打ち方がデタラメだったからだと思うが、拳について熟知しているはずのアマ出身チャンプが、1年のブランクを作ったほどの問題を今回、早々に再発させてしまうというのは、深刻な話だ。昨年3月に手術を受けた右拳は試合前、14オンスの練習でカバーしたというが、本番はそうはいかない。わずか2ラウンド目、右ストレートを当てて痛めてしまったという。それで戦いきった井上はたしかに凄いが、相手がこんなディフェンシブな選手でなかったら、ピンチに陥ってもおかしくない話だ。

 試合は井上がいきなり仕掛けてワンツーをヒット。もともと下がりながら打つスタイルのカルモナは、その強いプレッシャーに反撃が殺された。5回、ならばと前に出たカルモナに、井上は打ち合いで挑戦者の動きを止めかけた。6回、被弾も気にせずラッシュして、ここが勝負どころではあったが、負傷したせいか右が当たっても耐えしのがれてしまった。やや打ち疲れたもあったか、7回から井上は距離を取ってアプローチを変更。右ストレートを極端に控え、ボディを主体に挑戦者の動きを止めにかかった。8回、カルモナもボディを当ててきたが、的確なのは井上の方。ただ、その後に頭をつけて井上らしくないラフな打ち合いもあった。相手に打ち終わりを狙う以上の攻めがなく優勢はキープできたが、井上のヒットは左がほとんど。最終回、ボディの打ち合い後、消耗したカルモナに井上が決死のラッシュでダウンを奪ったが、最終ゴングまで粘られた。予想アンケートでは、井上の判定勝利は、317票うちメキシコのOTTOさん、平塚さん、朝寝朝酒さんら、わずか10票だった。

 素人目線の結果論でしかないが、拳を痛める危険性が高い選手が序盤KOを意識しすぎると、それを逃したときのリスクは大きい。今後は前半ポイントアウトして中盤から消耗した相手を仕留めるというパターンにするべきか、とも思う。井上は海外市場に出ていける貴重なスター選手であり、並のランカー相手に防衛回数を稼ぐようなレベルにとどまらないわけだから、キャリア10戦、23歳の段階でのこの負傷には、勝利よりも懸念されることの方が大きく感じられる。次戦は前王者ナルバエスとの再戦が既定路線。相手が極端にスタイルの変化しないベテランであることは、井上にとって進化するために試すべきことがやりやすいはず。今回は最後20秒で「レフェリーが止めなかった」と文句を言う関係者もいたが、むしろそれがなかったことで懸念材料を見直しやすくなったかもしれない。

井上 「右手を痛めて左手一本でいこうとしたら、左拳も痛めてしまった。最後は痛くても見せ場を作ろうという気持ちでした。KOできず申し訳ないです」
カルモナ 「井上は本当に強かった。でも、自分ほど彼を苦しめた選手はいないと思うので、負けましたが満足はしています」

 八重樫は、割れた採点以上には優勢だったようにも思うのだが、やけに被弾が目立ってポイントを失った。得意の打ち合いと、本来の出入りをうまくミックスさせられるのが強みのはずが、スピードとキレがいまひとつで中途半端になった。序盤、足を使っての組み立てがいつもの八重樫を感じさせたが、テクアペトラのジャブなど意外にもらってしまうのが目についた。相手はスタミナこそありそうだったが、パンチにスピードがなく、被弾は単に反応の悪さにも見えた。
 試合は途中、八重樫のヒット&アウェイの形になりかけた場面もあったのだが、ポーカーフェイスで手を止めない挑戦者が終盤に、覚悟して出てきたところ、八重樫はイーブンの殴り合いをしていた。ここは陣営が「激闘しろ」と指示していたのが逆効果だったとも思う。それが八重樫らしい見せ場ともいえるが、状況と相手のレベルを考えれば互角の打ち合いが不格好に映る可能性は高かった。八重樫は過去のハードな激戦で、肉体へのダメージ蓄積が心配されている(実際に八重樫は今回、左肩を負傷したままの試合)。よくベテランが大勝負以外の消化試合をしたがらないのはそのせいでもあるが、今回の反応の悪さがデフォルトなら、八重樫本人が望むような相手以外との試合は、もったいない消費になってしまう不安がある。試合後、本人は「僕はこういう戦い方しか見せられません」と言ったが、この試合が限界と考えるのは早計。そこはキャリアを生かして丁寧な試合展開を作り直してほしい。敗者テクアペトラは「採点はおかしい。八重樫のパンチは強くないし、ダメージまったくない」とコメントしたが、八重樫の強みが今回は相手にも伝わらなかったということかもしれない。
 予想アンケートでは、判定票でも大差で勝つ見方が多かった。その中で、匿名さんが「また相手のパンチも比較的もらうと予測します」、ローリングクレイドルホールドさんが「今回は悪い方の八重樫チャンプが出てしまうような気がします。相手の被弾も結構もらった上で、決定打を欠き頻差の薄氷防衛」と的中させた。

 井上拓真は、格下タンボレシを難なくKO。左フックで倒して、追撃で再度ダウンを奪うとストップ。相手が相手だけに当然の結果である。第2日本王座みたいになっている東洋王座は、通常は大半が日本人選手同士のタイトルマッチになるが、こういうスター選手がベルト持つと相手が避けるのか、挑戦者は格下の東南アジア選手ばかりになる。特に拓真はデビュー戦を除き相手が外国人選手とあって、兄ほどの盛り上がりになっていないが、王座は返上して年内にも世界戦へ進むという。いまWBO王座は兄が保持しているため、狙いはWBA王者・河野、WBC王者・クアドラス、IBF王者アロヨの3者。いずれとやっても興味深い組み合わせ、そのあたり現状の勢いで挑めるなら挑んでしまった方がよさそうではある。
 松本亮はまさかのKO負けで初黒星。計量後に倒れたというほどの体調不良で、ゴング後から明らかに動きが悪く、不用意な打ち合いをしていた。早々に動きが鈍くなって被弾を続け、最後は右ストレートに倒れた。陣営はこの相手と再戦を組むというが、一流選手でもない相手とリベンジを急ぐより、「体調不良」と「それで試合をしてしまった」ことの問題解決の方が必要だろう。
 
 会場は空席が目立つ残念なことに。かつてはテレビ視聴率が悪くても会場内はもっと熱気があったものだが、亀田問題あたりらボクシングに冷めた視線の一般人が増え、アリーナクラスの興行はそれがもろに見えることが増えた。もっともプロボクシングはもともと生ライブの面白みを伝える方向を強化すべき課題を抱えていて、それを大興行でだけクリアしようとしても成果は出ないだろう。日頃の後楽園興行の演出から考えた方がいいと思う。そうでなければ最終的に興行が小規模化し、地上波テレビ放送頼みが強まり、そのテレビが数字取れるもの以外には冷たいから、結果的に苦しくなると思う。海外ではライブが日本で考えられないほどお祭り騒ぎになっていて、その構図から学べるものがあると思うのだが。

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