2016年1月19日火曜日

ライトフライ級の勢力図

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スポナビ 2015年12月29日(火) 10:00
粉々に砕けた自信を取り戻すために――
八重樫東がLフライ級に挑戦する理由
世界戦2連敗で砕かれた自信
「去年の試合で八重樫はライトフライ級ではダメなんだと、みなさんがきっと思われたと思う。でも、自分はできると思っていたし、今もそう思っているので。それを証明したかった」
 なぜ、そこまでライトフライ級にこだわるのか? 12月29日に東京・有明コロシアムで迎えるIBF世界ライトフライ級王座挑戦を、ちょうど10日後に控えた公開練習時の会見で、その思いをあらためて問うと、八重樫東(大橋)はこう答えた。
 昨年12月30日、ペドロ・ゲバラ(メキシコ)と空位のWBC世界ライトフライ級王座を争い、7回KO負けに退いた。ミニマム級から一気にフライ級に2階級上げ、世界2階級を制覇。約1年半の間に3度防衛したフライ級王座から陥落後の再起戦で1階級下げ、3階級目を狙いにいった。階級を上げて、また下げる。難しいコンディショニングを求められる中での挑戦は、痛恨の左ボディ一撃に沈んだ。軽量級の雄、ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)との大一番で、激戦の末に喫したプロ初のTKO負けに続き、初めてテンカウントを聞いた。
最後のミスに悔い
7回KO負けで終わったゲバラ戦。この敗戦を「自分のミス」とする八重樫だからこそ、この階級にこだわる
 減量を含めた調整には手応えを感じていたが、最後の最後、前日計量からのリカバリーに問題があったというのが試合直後の八重樫の分析。当日の体重をフライ級のときと同じにして、リングに上がったことに原因があったと言うのである。だが、世界戦連敗という厳しい結果を前に一時は現役続行と引退の間で揺れた。今年3月の復帰会見では大橋秀行会長が「(ライトフライ級転級は)自分のミス」と階級をスーパーフライ級に上げ、存分に力を発揮させたい意向を示したが、八重樫はこの時点からライトフライ級での再チャレンジの希望を表明していた。あくまでも自分のミスとの気持ちもあったろうし、現役を続行するなら、と心に決めていたのかもしれない。
「ボディで倒されるのはボクサーにとって屈辱的な負け方。その屈辱を晴らすためにも、ライトフライ級しかないと考えたのではないか」と言うのは八重樫とコンビを組む松本好二トレーナーだ。自身も現役時代に階級を上げ下げする難しさを体感しており、当初は反対し、説得に回ったというが「八重樫の本気を感じた」と振り返る。5月にスーパーフライ級で再起後、8月の復帰2戦目は八重樫が志願してフライ級契約に。その際、八重樫はIBF独自の当日計量を見据え、自らの意志でライトフライ級から規定の4.5キロオーバーに試合当日の体重を抑え、リングに上がっていたのだという。
「粉々になってしまった自信をまたひとつひとつ、八重樫はしっかりとつくり上げてきた」
 八重樫の再チャレンジを全面的にサポートしてきた松本トレーナーもまた、自信を深めてきた。
トレーニングメニューも再考
 もちろん体重面のシミュレーションだけではない。フィジカルトレーニングも見直した。恒例だった土居進トレーナーとの通称“土居トレ”を一時離れ、“体の使い方”に主眼を置き、白井・具志堅ジムの野木丈司トレーナーとの週1回の階段ダッシュを中心とした走り込み、数々の格闘家を指導している和田良覚トレーナーとの週2〜3回のゴールドジムでのトレーニングに取り組んできた。土居トレーナーとは時間をかけてフライ級の体をつくってきたが、これ以上は筋量を増やすことができない。
「たとえばパワーが必要なら、筋肥大させて、単純にマックスの出力を上げていけばいいんですが、階級を落とすのでそれはできない。体の使い方がもっと上手になれば、自分が今、持っている筋量で出力を上げることができる」
 その成果は「軸がブレないし、全体的な動き、スピードがアップしている」と松本トレーナーがジムワークの中で感じ取っている。
 32歳という年齢も考慮して、練習にメリハリをつけることで効果を最大化させることにも心がけてきた。
「練習をやめる勇気を持つということですかね。自分は練習することが取り柄というか、才能の人間ではないので、今でも怖い部分はあるんですが。誰しも練習をやればやるだけ、自信や安心感につながる。でも、集中力が切れた状態で練習を続けても意味がない。練習に依存せず、自分の体と向き合って、いかに実のある練習ができるか」
 36歳にして、いまだトップレベルをキープする拓殖大学時代の先輩・内山高志(ワタナベ)の姿勢からも大いに見習うところがあったという。
「この1年は自分の思うようにやらせてもらった。それも松本さんが肯定してくれて、初めて成立すること。この2度目のライトフライ級での挑戦も正直、僕のわがままを大橋会長に聞いていただいた形になる。感謝の気持ちと覚悟を持って、試合に臨みたい」
世界王者が居並ぶ日本のLフライ級
 八重樫が“証明”を果たせば、ライトフライ級の勢力図は書き換わる。現在のライトフライ級のトップと目されているのはWBO王者のドニー・ニエテス(フィリピン)。33歳の試合巧者は2階級目となる王座を8連続防衛中で、昨年11月には所属するフィリピン・セブのALAジムが主催する興行で米国進出も果たしている。八重樫が3階級を制覇すれば、ニエテスに負けない実績を持つ存在として、クローズアップされることは間違いない。
 今回、八重樫が挑むサウスポーのメキシカンファイターで、若き24歳のハビエル・メンドサが「6週間の高地トレーニングなど、今までの2倍の量の練習を積んで準備をしてきた」と万全の構えを強調し、メンドサのプロモーター兼マネージャーで世界4階級制覇の元スター選手、エリック・モラレスを指導していたフェルナンド・フェルナンデストレーナーが「ヤエガシはグレートなボクサーであり、グレートなチャンピオンでもあった。我々にとってタフな試合になる」と敬意を表するのも、決して社交辞令ではないだろう。
 また、大みそかに東京・大田区総合体育館で2度目の防衛戦を迎えるWBA王者の田口良一(ワタナベ)がベルトを守れば、11月28日の仙台で八重樫を倒したゲバラに逆転の判定で競り勝ち、WBC王者となった木村悠(帝拳)と合わせ、3団体を日本人王者が占めることにもなる。田口は4年前に木村に6回負傷TKO勝ち、木村は八重樫とはアマチュア時代に通算2勝1敗と因縁があるが、田口は評価の高いWBA暫定王者で強打のサウスポー、ランディ・ペタルコリン(フィリピン)との来年中の“統一戦”、木村は防衛5度と当面は実績を上げることに集中する。その上で田口は「盛り上がるのはうれしいし、いずれは日本人対決をしたい」と意気込みを示し、木村は「4団体あるので、この階級で最強のチャンピオンを目指したい」と未来を見据える。
「日本人が軽量級を制覇するのはいいこと。自分は、そこまでは気にしてないけど、お互いに立場が変われば、いろんな意識が芽生えてくるかもしれない。とりあえず、今は目の前の敵をやっつけようと思う」
 当然ながら八重樫はライトフライ級での雪辱しか頭にはないが、この階級における日本、フィリピン、メキシコの三つ巴の構図が鮮明になりつつある中、来年は日本の新勢力の台頭も見込まれる。
 日本人として初めて4団体を制しているIBFミニマム級王者の高山勝成(仲里)は2階級制覇も選択肢のひとつに入れていることを公言してきたし、今年5月、WBOミニマム級王座を国内最短5戦目で奪取した20歳の“中京の怪物”田中恒成(畑中)は、まだ成長期で階級を上げることは確実である。
 大みそかにそれぞれ防衛戦に臨む高山、田中の他にも27日に地元京都で日本ライトフライ級王座に挑み、新チャンピオンとなった拳四朗(BMB)は今後が期待されるホープだ。まだ6勝3KOと戦歴は浅いが、関西大学時代に国体で優勝するなど、アマキャリアは豊富。童顔の23歳は確かな攻防センスに加えて、度胸の良さも証明済みで、必要なのは経験のみ。父で元東洋太平洋ライトヘビー級王者の寺地永会長は「強い相手と戦いながらレベルアップを図って、来年末には世界挑戦できるくらいの力をつけたい」とプランを語っていた。
 今年の年末は東京、大阪、名古屋の3都市で合計7つの世界戦が行われる。その中でも、足かけ11度目の防衛戦に臨む内山、衝撃の戴冠劇から1年ぶりの復帰を果たす井上尚弥(大橋)、前王者との因縁のリターンマッチを迎える井岡一翔(井岡)ばかりに目が向きがちだが、八重樫のチャレンジをはじめ、ライトフライ級の今後を占う意味でも年末のリングは興味深いのである。

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