Yahooニュース THE PAGE 12/11(水) 6:21
36歳”激闘王”八重樫がフラフラになって異例のハードトレ公開。4度目世界王座奪還へ「超接近作戦」
プロボクシングのトリプル世界戦(23日、横浜アリーナ)でIBF世界フライ級王者、モルティ・ムザラネ(37、南アフリカ)に挑戦する元3階級制覇王者で同級14位の八重樫東(36、大橋)が10日、横浜市内の大橋ジムで公開練習を行った。異例とも言える1時間半のハードトレを披露したが、これは年齢と共に落ちる感覚をキープするための八重樫流の調整法だ。「勝利がイメージできる」とした大橋秀行会長は「勝ったら4階級制覇へ」と次なるプランまで掲げた。八重樫は対ムザラネ戦略を数パターンを用意しており、被弾覚悟の「超接近戦」が、そのひとつ。プロ15年目の”激闘王”が、史上最年長、4度目の世界王者奪取を狙う。
ふらふらになった異例の公開トレ
どこまで己を追い込むのか。こんな世界戦の公開練習は見たことがない。それほど凄かった。サンドバッグから始まり、パンチングボール、松本トレーナーとのミット打ちを終えると、反復横跳びから心拍数を限界まで上げる「パワーマックス」へ。最後は、自重を使った体幹トレで、ベンチプレス台に足をのせ腕立ての姿勢のまま静止を7分間。全身から汗が滴り落ちて、そこに汗の水たまりができた。まるでスポ根漫画の世界である。その水たまりをモップで掃除した八重樫は、息も絶え絶え、ふらついていた。見守っていた大橋会長が、「やりすぎじゃないか」と心配するほど。
だが、これが「練習は歯磨きみたいなもの」という八重樫流。
「練習をやらないとやらないだけ感覚が落ちる。年齢ですよね。練習量が落ちると、どんどんやれないことが増えてくる。反応、反射などの感覚を取り戻すのに時間がかかる。それって無駄。だから年齢に応じて練習量を落とすのではなく、逆に体を維持するためにやり続けることが大事なんです。休みなどいらない。心拍数を上げて反応を呼び起こすと、感覚が落ちる誤差が少なくなるんです。だからギリギリまで動いたほうがいいんです。完休(完全休養日)も作らない。休んだからといって疲れが取れるわけではない」
10月から世界戦の準備をスタートしたが、ここまで完全休養日は1日もない。
「日曜日は休みだ、なんて1週間単位のスケジュールを作るのもやめました。6日動いて7日目も動けるなら、休みもいらない。1日、1日の積み重ねで曜日の感覚をなくした」
自らの体を実験台に経験を積んできた八重樫流の身を削るような調整方法なのだ。
2017年5月、ミラン・メリンド(フィリピン)に1ラウンドTKO負けを喫してIBF世界ライトフライ級王座から転落して以来、2年7か月ぶりの世界戦。相手は、WBA世界バンタム級スーパー、IBF世界同級王者の井上尚弥(26)の次期対戦候補として話題のWBO世界同級王者、ジョンリル・カシメロ(フィリピン)、元WBO世界同級王者、ゾラニ・テテ(南アフリカ)を倒したことがあり、坂本真宏(六島)、黒田雅之(川崎新田)と2人の日本人挑戦者を蹴散らかしてきた最強王者のムザラネである。
38勝(25KO)2敗のキャリアを持つ37歳のベテラン。
大橋会長は、「当初、八重樫の調子が良くなかったが、スパーを重ねて手ごたえを感じている。自分が見ていて勝てるイメージがわいてきた。ムザラネと八重樫は技術もファイティングスピリットも似ている。八重樫らしい熱い試合ができる」と言う。
「15年コンビを組んできて会話をしなくても阿吽の呼吸がある」と大橋会長が信頼を寄せる八重樫も、こう決意を語った。
「2年半ぶりなので、いろんなものを忘れている。今、それを取り戻しているが、逆にそれが新鮮。楽しみながら試合を迎えたい。顔は腫れると思うが、顔面で戦うわけじゃない(笑)。被弾するのは、勝ちへの布石。自分らしい戦いができれば突破口が見えてくる。ムザラネネは強敵に間違いない。そういう相手とやれるのはボクサーとして幸せ。タメ(同学年)には負けたくないですけどね」
ムザラネは、老獪で装甲車のような防御が特徴。頭をすぼめて、ガードを固め、腕が長いため、肘を使ったエルボーブロックでボディを防ぐので打つ場所がない。速くて距離の長い左ジャブが武器。一発はないが、坂本、黒田も、コツコツと的確なパンチを浴び続けて顔を腫らしての完敗だった。
「いきなり段取りもなしに突っ込んでもダメ。ちゃんとした布石を打ちつつ、打ち合いにもっていくなり、足を使うなり状況に応じて一番いい選択をしていく。判定まではいくのかなと思っている。12ラウンド全部を使って、いろんなプランを立てている。どれがはまるか、どれがはまらないかわからないが風を感じてやりたい」
八重樫は何パターンも対ムラザネ用の作戦を用意しているが、そのひとつが「超接近戦」だ。
「注意するのは左ジャブ。もし見えづらく左ジャブを被弾するのなら、超接近戦を仕掛ける。黒田がやった接近戦より、さらに、もう1歩、2歩、前へ出て頭から突っ込んでいく。ムザラネの反応を見て、嫌がること、嫌がることをやっていく。あれだけディフェンスで一生懸命守ろうとするのは、打たれ強くない証拠」
5月の黒田とムザラネの試合解説をした八重樫は最前席で王者の戦い方をチェックしていた。ムザラネは、井上尚弥がWBSS決勝で激闘を演じた元5階級制覇王者、ノニト・ドネア(フィリピン)とも11年前に対戦し、6回TKOで負けているが、全盛期のドネアが、サイドからアッパーを使って強引にこじ開けようとしても簡単には崩れなかった。だが、それらの戦いにヒントを得た。
過去の誰よりも、インサイドに入って乱打戦に持ち込む。それで攻守分離型のムザラネのペースを乱せば、弱さをさらけだすのかもしれない。この日の試合を想定したミット打ちでも、八重樫は、松本トレーナーの顎に頭をぶつけるくらいの「超接近戦」を何度か試みて、そのタイミングを確認していた。
八重樫は、過去、サウスポーとの対戦でも、インファイトに活路を見出だしてきた。
「プロ15年、いろんなことを経験してきたことがなによりの財産。それを試合で使わない手はない」。もちろん、八重樫が用意している作戦はこれだけではない。それでも激闘王の名に恥じないスタイルが、4度目の世界ベルト奪取の突破口になるのかもしれない。松本トレーナーも「パンチに力が入ってきた。当たれば倒せる」と太鼓判を押す。
2年前、メリンドに1ラウンドに倒され負けた試合後、大橋会長は引退を勧告した。八重樫は、すぐに「やらせて欲しい」と現役続行を訴えたが、その後、8か月間もジムから足が遠のく時期があった。八重樫は真剣に引退を考えていた。その後、復帰を決断したが、大橋会長と松本トレーナーは「反応や動きが悪ければ試合も組まないし引退させる」と条件をつけていた。
八重樫は年齢の衰えに抵抗するようなハードトレを続けた。
大橋会長は、「凄まじい練習量を目の当たりにしたら辞めろと言えなくなった。心を動かされた」という。
「復活理由? ボクシングが好きだから。2年半前に一度(ボクシングから)離れようとした。でも、いろんな答えあわせをして、ボクシングが好きだから戻ってきた。最高の舞台を用意してもらい、恵まれている。大橋会長ら支えてくれている人たちへの恩返しのためにボクシングを全うする。戦う意味はそこにある。八重樫の試合はおもしろいなと言ってもらえるような僕らしいファイトをしたい」
八重樫の戦う理由ーー。。
「勝っても引退」
そんな説も流れていたが、大橋会長は、「タイミングの問題があって、当初考えていた4階級制覇に挑めなかったが、この試合に勝ったら4階級へ。八重樫がやる気がある限り応えたい」と、王座奪回を前提に次なるプランを掲げた。
八重樫も「次、4階級行くぞ、と言われれば行く」と応じた。
それを聞いた大橋会長が、マイクを通さず「じゃあ辞めろと言ったら辞めてくれよ」と小声でつぶやくと、八重樫は「それは聞かないかも」と、顔をくちゃくちゃにして笑った。
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