2017年5月24日水曜日

ショッキングな

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ボクシング・マガジンさんのfacebook 10分前
「“本物”を、ひとりでも多くの人に伝えたい」
5月20、21日に東京・有明コロシアムで開催された『ボクシングフェス2017 SUPER 2 DAYS』は、フジテレビ系で全国生中継され、視聴率は軒並み好調だったようだ。
 比嘉大吾(白井・具志堅スポーツ)の痛快戴冠戦に始まり(拳四朗=BMB=の奪取戦は残念ながらダイジェスト)、村田諒太(帝拳)の論議を呼ぶ判定……。八重樫東(大橋)のショッキングな初回KO負け、そして“大トリ”井上尚弥(大橋)の豪快かつハイレベルな締め──。
 普段、ボクシングに興味のない人からも、「井上は凄いねぇ」とか、「村田の判定はどうなのよ!」とか、「比嘉っていうのは前進、また前進でおもしろいね」と、リアクションはことのほか多く大きい。
 これは紛れもなくテレビ中継の威力のおかげである。ボクシング界にいる(端っこですが……)人間からすれば、「今回試合を観てくれた人が興味を持ってくれて、次回からは会場に足を運んでくれればなぁ」と思うのだが──。
 時刻こそ重ならなかったものの、『ボクシングフェス』の初日と同日、名古屋では田中恒成(畑中)のV1戦が行われた。会場は武田テバオーシャンアリーナ。普段はフットサルの名古屋オーシャンズがホームアリーナとして使用するなど、フットサル競技場として有名だそう。ボクシングが開催されるのは初めてだったが、ゼビオアリーナ仙台同様、どの席からも非常に見やすい印象の素晴らしい会場だった。
 この試合のテレビ中継は、田中のデビュー戦から放送を続ける地元のCBC(中部日本放送)はもちろんのこと、TBS、IBC(岩手放送)。TBSは全国中継でなく関東のみだったから、この3局の地域だけが恩恵を受けたかたちだ。
 前回大晦日のモイセス・フエンテス(メキシコ)戦は、CBCがネットライブ中継をしてくれたおかげで、全国どころか世界中で視聴可能となり、その戦いぶりを目の当たりにした、これまで田中を見たことのなかった日本のファンは当然のこと、世界のメディアも賞賛の嵐。一躍、「コウセイ・タナカ」の名前が広がりを見せたのだが、今回は残念ながら、ネットライブはなし。上記3地区以外のボクシングファンは、「うちの地域では中継がない」と嘆き、悲しみ、そして怒りの声も少なからず上がった。
 16戦16勝16KOの“プエルトリコの怪物”アンヘル・アコスタが相手だというのに、全国中継がなかったことは、至極残念でならない。
 でも、ボクシングファンが試合を見る手立てはあったじゃないか、とも思うのだ。会場に足を運ぶ。ただそれだけのこと。
 自分の“ファン時代”を振り返る。
 三度の飯より生観戦、とばかりに、アルバイトをして貯めたお金を、切り詰めて切り詰めて、それでも足りないから、1日1食の生活を続けてチケットを買った。テレビ中継のない、地方で開催される日本タイトルマッチにも足を運んだ。いや、中継があったって関係なかった。いちばん安い席で2階のてっぺんだったとしても、「その瞬間、その現場に立ち会いたい」という一心で、試合場に赴いた。テレビでは味わえない空気、香りが間違いなく存在するからだ。そうして苦労して生で味わった試合は、もう30年近く経とうとも、決して色褪せない。どの席に座って、会場がどんな雰囲気だったか、いまだに昨日のことのようによみがえる。
 テレビやインターネットは急速に進化を遂げ、いまや携帯電話でもボタンひとつで世界中の映像を見られるようになった。アナログ世代のわれわれには信じられない発展。便利の極致である。
 決してそれらを否定するつもりはない。むしろありがたく利用させていただいている。けれども、やはり「試合結果だけ知ればよい」だの、「テレビやPC、携帯画面で観られればよい」という考えには至らない。はっきりと、満足できない。それは、現場で見て感じる“ライブの素晴らしさ”を知ってしまったから。
「チケットが高い」「魅力的なカードじゃない」「終了時間が遅い」……。日ごろ、後楽園ホールで行われている興行では、たしかに、「そう言われてもしかたないなぁ」と思うものも多々ある。けれども、魅力的なチャンピオンと、相応のチャレンジャーが戦う世界タイトルマッチや日本タイトルマッチですら、集客に苦戦するという現在。これには、とてつもない危機感を感じざるをえない。
 それなりにそのカードに注目しているにもかかわらず、「テレビやネットで観ればいいや」となってしまうボクシングファンも多いと聞く。かつては会場に出向いたはずのファンが、動かなくなったのはなぜだろう。
 全国中継があり、視聴率も好調。知名度もアップし、でも、集客につながらないのならば、われわれはどんな手を打てばよいのだろうか。
 個人的なことで恐縮だが、テレビ視聴率について、敬愛する女流作家・木内昇さんが、初のエッセイ集『みちくさ道中』(2012年・平凡社)で記した一文が頭から離れない。
「ひとつの作品がどういった深度で人に伝わっているか、それを受け取った人にどれほど長い時間留まっているか、数字では計れない」
 本物を、この目で見たい。聞きたい。感じたい。そう思わせる何かを、ひとりでも多くの人に伝えたい。報道する私たちも、不断の努力を積み重ねなければならないと、気持ちを引き締める。
 そして、上質で高級な選手には、それにふさわしい雰囲気を味わわせたい。超満員大観衆の尊敬の眼差しを降り注ぎたい。そう思うのだ。

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