2017年5月24日水曜日

これがボクシングですよね

https://goo.gl/RUdZZS
Sportsnavi 2017年5月23日(火) 14:00
怖さが凝縮されていた八重樫東の敗戦
再び「這い上がる姿」を見せることは?

「短いラウンドだったが、すべてが集約していた」
 井岡一翔(井岡)、ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)ら強豪と激闘を繰り広げ、“激闘王”の異名を取った八重樫がマットに沈んだ光景に会場が静まり返った。わずか165秒での決着……そこにボクシングの怖さが凝縮されていた。
 王者・八重樫東(大橋)と暫定王者ミラン・メリンド(フィリピン)によるIBFプロボクシング世界ライトフライ級王座決定戦が21日、東京・有明コロシアムで行われ、八重樫が1R2分45秒、TKO負けで敗れ、3度目の防衛に失敗した。
 戦前のプランはリング上で対峙し、スピードで上回ればアウトボクシングで勝負、スピードで勝てない場合は中盤以降にインファイトに持ち込み潰していくというもの。大橋ジムの大橋秀行会長は「メリンドは実績、キャリアともに十分で、激闘にならないと勝てない相手。中盤から終盤のハートに期待している」と接戦を予想していた。
 それが……12Rどころか予想だにしない1RでのKO負け。「(メリンドの)風を感じる前に終わってしまった」と笑みすら浮かべていた八重樫。「パンチを当てられて、(自分は)当てられなかった。それが技術の差だと思うし、短いラウンドでしたけど、そこにすべてが集約していると思う」と敗因を語った。今後については「自分自身、奮い立たせるものが残っているのであればきっと立ち上がるだろうし。もういいかなと思ったらスパッとやめるかもしれないし。そこは雰囲気で決めていきます」と明言は避けた。
立ち上がりは良い展開になりかけていたが……
 22日、同じ大橋ジム所属のWBO世界スーパーフライ級王者・井上尚弥の喜びの一夜明け会見の横で、八重樫と長年タッグを組んできた松本好二トレーナーに試合を振り返ってもらった。
 試合開始のゴングが鳴ると、八重樫はキレのいい左のダブル、左のトリプルで相手をけん制。一方、メリンドの左ジャブをしっかりとさばいていた。松本トレーナーは「最初の3Rまではワンサイドも覚悟していたし、ジャブの差し合いで負けるかなと思っていたけど、八重樫のジャブが当たっていて、メリンドも八重樫の距離感に面食らっている部分が見えた」と、立ち上がりの良さを感じていた。
 ところが好事魔多し……。1分過ぎ、ロープ際で左ボディを食らうと、やや動きがにぶる。「ボディが強いなと思ったので、ちょっと集中しようと思った」(八重樫)と意識がやや下に向かった間隙を突いて、メリンドの左フックが八重樫のこめかみを直撃した。混戦の中の一撃に、観客席からはフラッシュダウンかなとも思わせた。八重樫もすぐに自陣に向かって「大丈夫」と合図を送っている。しかし、予想外に効いていたのか、「手応えはなかったけど、ヤエガシの足がふらついているのが分かった」というメリンドの左アッパー2連発に2度目のダウン。これで完全に効いたところでワンツーをもらい、マットに沈んだ。
 松本トレーナーは「最初のダウンは(パンチの)受け方が悪くてバランスを崩してしまったのかなとも思ったんですけど、でもダウンはダウン。パンチをもらったのは見えていたので、どれぐらい効いているのかな、と判断しているうちに立て続けにパンチを食らって試合が終わってしまった」と語る。

交通事故のような被弾に不完全燃焼
 問題は2度目のダウン以降。左ボディから前に出てきたメリンドが左アッパー、さらに間髪入れずに2発目のアッパーを繰り出す。これがガードをこじあけてあごにヒットした。完全に効いたと思った松本トレーナーは「このラウンドは捨てて、ガードを固めてカウンターだけと思って、致命傷を食わないようにしてほしかった」と、リングサイドから「カウンター、カウンター」の指示を送った。
 ただ、八重樫の好戦的なスタイルが裏目に出てしまう。例えば井岡戦では6R以降、両目がふさがり、上半身から上が見えない状態でも果敢に打ち合った。今回もアウトボクシングに徹してしのぐという選択肢はなく、相手の土俵に乗っかってしまった。メリンドもメリンドでKOに欲を出さずに焦ってパンチを振り回すことがなかった。「あわててパンチを振り回してくれればクリンチで時間をしのぐこともできた。相手は下から上にというパンチの組み立てが良かった」(松本トレーナー)と、徹底した左ジャブ、左ボディからのコンビネーションに、最後はガードする間もなくワンツーのえじきになった。
 コンディションは悪くなかった。試合の出だしも悪くなかった。それでも交通事故のような予想外の左フックに効かされてしまった。松本トレーナーは「いい感じかなと思った矢先にスコーンとやられて。これがボクシングの面白さであり、怖さであり。何ともやりきれない……煮え切らない……何て言ったら分からない……終盤勝負をさせてあげたかったですけど、これがボクシングですよね」と不完全燃焼に悔しさをにじませた。
松本トレーナー「まずは休んでほしい」
 今後については「まずは休んでほしい」と松本トレーナー。進退については、自分からどうしろ、こうしろと言うことはないときっぱり。ことし2月で34歳とベテランの域。過去のダメージの蓄積も心配される。ただ、この結果では燃え尽きられていないのも確か。試合後は「明日練習に行きます」と冗談が出るほど。翌朝もLINEで連絡を取ったところ「体は全然元気です」との返答があったとのこと。
「八重樫のボクシングはもう“終活”に入ってきているとは思うので、それを八重樫がどう描いていくのか。いつもの打ちつ打たれつの12ラウンドと比べると体の受けるダメージは雲泥の差がある。男として終わりの美学があの結末でいいのか。自分の立場を度外視すると、3階級制覇もしたし潮時でもいいかなとも思うけど、メリンドと再戦したいとなったら、その気持ちも分かりますし、やるとなったら全力でサポートします。ただ、今はゆっくり休みながら自問自答して、家族や会長と相談して決めてほしい」
 激闘王と称されたきた戦い方が今回は仇となった。顔もいつもと違ってきれいなまま。試合後は笑顔も見せていた八重樫だが、時間が経つにつれてどういう感情が浮かんでくるのか。
「僕は勝ったり負けたりのキャリアなので、やっぱり見ているファンの方々には、立ち上がる姿とか、もう1回這い上がる試合を見ていただければいいかなと思っています」
 試合2日前の調印式で語っていた八重樫の言葉。数々の山を乗り越えてきた八重樫にまた大きな山が立ちふさがった。激闘王はどのような結論を出すのだろうか。

0 件のコメント:

コメントを投稿