2017年1月30日月曜日

桑原塾

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THE PAGE 2017.01.30 14:00
なぜトップ選手はダルビッシュの合同トレに通ったのか。その意義を検証。
 キャンプインを目前に控え、それぞれの選手が行っていた自主トレも打ち上げとなるが、このオフ、注目を集めたのは、レンジャーズのダルビッシュ有の呼びかけに、各チームのトップクラスの選手が集まった“ダルトレ”だろう。昨年オフは日ハムの大谷翔平一人だったが、今オフはダルビッシュが信念を持って、自らのノウハウを広く伝授することを決意。SNSでオープンに呼びかけた効果もあって、合計25人もの選手が、ダルビッシュの教えを受けた。
 阪神の藤浪、楽天の則本から始まって、日ハムの中田翔、マー君、巨人の坂本、ロッテの涌井、清田、ヤクルトの由規、ソフトバンクのドラ1、田中正義、そして楽天のオコエらが、野球の技術に直結するウエイトトレーニングのやり方だけでなく、その目的と効果、食事と休養の重要性も含めたトータルでの肉体改造のノウハウを学んだ。それらの画像などをインスタにアップすることで、まだまだ野球界に根強くはびこっている“常識の嘘”を覆すという啓蒙効果も計りしれなかった。
 そもそもなぜダルビッシュの元に人が集まったのか?
 現役時代に途中でウエイトトレーニングの重要性に気づき、打撃が向上した経験のある元千葉ロッテの里崎智也氏は、こんな見解を持つ。
「パフォーマンスをアップさせるにはパワーがあったほうがいいに決まっています。一流選手がどんなことをやっているのかを知りたい、というのは当然ですよね。ましてダルビッシュは、現役で自らそれを実践して結果を残しているのですから、なおさらそのノウハウは聞いておきたいでしょう。まだまだプロ野球のウエイトトレーニングに対する考え方は、古いものがありますから。
 キャンプでも、必ず練習の最後におまけみたいにして時間をとっていますよね。秋、春の時期にもよるでしょうが、極端なことを言えば、もっとメインの時間帯にウエイトトレーニングの時間を割いてもいいはずなんです。今の選手は勉強していますから、向上心の強い選手ほど現状に疑念を抱き、ダルビッシュの考えを聞きたいと思ったのでしょうね」
 成功する選手の条件でもある向上心、探究心とダルビッシュの開いた門戸が一致したのだろう。
 では、問題は、その効果のほどである。そして専門のフィジカルトレーナーの教えと何がどう違うのか、という点だろう。
 トレーニング、サプリメントに関する第一人者で、阪神に移籍した糸井嘉男やボクシングのIBF世界ライトフライ級王者、八重樫東らへの指導も行っている「桑原塾」主催者の桑原弘樹氏は、こう言う。
「隣でトレーニングを見たわけではないので、彼が発信しているものから推測するしかないという前提で話をしますが、ダルビッシュのトレーニングは、野球という競技のポジションや、その選手のレベルや目的に応じて、必要なメニューと不必要なメニューの取捨選択ができている部分が特徴だろうと思います。競技者としてのパフォーマンスをアップするために、何が必要で、その目的のためにどの筋肉を、どんな手段で、どんな期間で、どこまで鍛えるかを理解しているのでしょう。トレーナーは、その競技の専門性を理解していなければ、トレーニングでつけたパワーをどう効率よく出力させるのかの橋渡しに困るのですが、ダルビッシュの素晴らしい点は、自らが現役で実践して、効率のいい技術への転換がわかっている点だと思います」
 体がひとまわり大きくなったオコエは、「どういう筋肉をつけることが、どんな形で野球につながるかを教えてもらった」と語っていたが、野球という競技に直接リンクするトレーニング理論が、ダルトレの長所なのだろう。実際、一昨年オフからダルビッシュの助言で肉体改造に取り組んだ大谷は、成績だけでなく、平均球速も飛距離も伸びて、間違いなくアスリートとしての“排気量”がチューンアップされた。
 トレーニングの成果を効率よく競技に直結させた成功例。それもまたトップ選手が群がる理由のひとつなのかもしれない。
 ダルビッシュの指導は、選手それぞれの目的やレベル、特徴によって様々だったようだが、体重を6キロ増やした藤浪や、3キロ増やしたオコエにように大胆な“マッチョ化”に取り組んだ選手もいる。大谷は大きな故障を起こさなかったが、そこにリスクはないのかという疑問もある。
 桑原氏は、増量には、より計画性が必要だと力説する。
「トレーニング、栄養、休養で体重を増やし体を大きくすると同時に脂肪も増えています。重要なのは、体組成と筋量なんです。急激な増量は、筋肉が動く効率を落として肉体が扱いにくくなります。3年後をイメージして、ピリオダイゼーション(期分け)と言われる計画性をもって筋量を増やすことなんです。1か月に筋肉に薄皮一枚くらいの量を重ねていくイメージです。身長や代謝、年齢など、個人差はありますが、1か月に2キロ以上を急激に増やすと、筋肉の効率が落ち、また関節への負担、内臓への負担も増します。一度、体重を増やした後に、筋肉をできるだけ削らないように、脂肪分を落としていく作業が必要ですが、関節、内臓へのケアを十分に行っていなければリスクもあることも承知しておかねばなりません」
 おそらくダルビッシュのことゆえ、そのリスクも十分に理解しているのだろう。そして、ダルビッシュの合同自主トレは、何も強要や、絶対的な正解を示す“ダルビッシュ教”でもなんでもなく、こういう考え方があるよ、こういうトレーニング方法があるよと、知識や見聞を広げ、トレーニングに関する固定観念をふりはらう目的があったのだ。SNSで拡散することで、実際にプロだけでなく、少年野球や、アマチュアの指導者にまで影響を与えている。そう考えると、トレーニング不毛の野球界に一石を投じた“ダルトレ”の意義は、非常に大きかったのかもしれない。

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