2016年4月15日金曜日

日本王者「拳四朗」がTKO初防衛

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THE PAGE  2016.04.15 06:00
漫画の世界から飛び出た親子日本王者「拳四朗」がTKO初防衛
その名も拳四朗。リングネームではない。本名。寺地拳四朗(24)。元日本ミドル級、東洋太平洋ライトヘビー級王者の父親、兼、BMBスポーツジムの会長、寺地永(52)が名づけた。
 もちろん人気漫画「北斗の拳」の主人公「ケンシロウ」からとった名前だ。52歳の父は、まさに北斗の拳世代。次男に「強くなれ」の夢を託して、漫画の世界のヒーローから、その名を拝借した。
 昨年12月にプロ6戦目で日本ライトフライ級のタイトルを奪った拳四朗が、14日、後楽園ホールで、世界挑戦経験のある同級1位の角谷淳志(30、金沢)を相手に、初防衛戦のリングに立った。1ラウンドに3度のダウンを奪い2分53秒に衝撃TKO勝ち。聖地に衝撃を与えた。
「やりにくい相手。まさか1ラウンドに倒せるとは思っていなかった」。
 スタートは硬かった。初防衛戦の緊張なのだろう。実は一度、ガウンを忘れて控え室を出た。
「左ジャブから組み立て右カウンターを狙う」という考えだったが、左フックを合わせられタイミングを崩す。だが、クリンチ際、油断していた相手に左フックを数発を叩き込むと、これがダメージブローに変わる。通常、クリンチの状態で体を抑えられていると、パンチは死ぬものだが、「あそこで打たれるとは想像していなかった」という角谷は面くらった。密着戦でアッパーを放つと、角谷はキャンバスに崩れた。
 すぐさま立ち上がったが、拳四朗は、フィニッシュの機を見逃さなかった。
「落ち着いていくかどうか迷ったんですが、行きました」
 ベルトを巻く資格を持つための勇気だ。
 左フックをヒットさせ、正真正銘のダウンを奪う。
 再度、角谷は起き上がってきたが、拳四朗がパンチをまとめると、その勢いに巻き込まれるようにしてよろけてダウン。レフェリーは2分53秒、TKOを宣告した。
 敗れた角谷は、控え室で「何もできずに終わった。あんまりに早くて、彼が強いかもわからないまま」と、小さな声でうなだれた。
 ベルトを守った拳四朗は、リング上で「おまえはもう終わっている」とは言わずに、「年内に世界を狙いたい」と宣言した。
 7戦7勝(4KO)。昨年12月に堀川謙一(SFマキ)から日本タイトルを獲得した試合は、国内の年間最高試合として表彰された。左ジャブを軸にした堅実なボクシングスタイルのボクシングだが、父の現役時代とは正反対に迫力と荒々しさに欠けている点が物足りなかった。
 だが、この日は、見違えるスタイルでのTKO決着。
 本人は「ずっと続けている体幹トレーニングの成果か、パンチ力が増している」と言う。
 父親でトレーナーの寺地会長が言う。
「見るからに体格がでかくなっている。そこに地道なトレーニングを積み重ねてきた成果が出ていると思う」
 専属のトレーナーの指導を受けながらの自重を使ったトレーニングで、犬の格好や、ワニの格好をしながら這って歩くトレーニングもメニューにあって「最初は恥ずかしかったけれど力がついている」と拳四朗。ただ体格の変化と共に減量にも7キロが必要になってきて、「その影響からか足が動かず使えなかった。そこが反省点です」と、虫も殺さぬ少年のようなあどけない顔をして笑う。
 奈良の朱雀高校に入ってからアマチュアボクシングを始めた。
 スポーツ推薦での入学。背の低かった息子に、競艇選手を薦めていた父に「ボクシングで結果を出せば、推薦でボート選手にもなれるから」と、無理やりねじこまれた。思うように勝てずに「最初は嫌いで嫌いでしょうがなかったんですけどね」と拳四朗は言う。
 しかし、高校2年の頃から、勝つ味を覚え始めると、徐々にボクシングに対する対峙の仕方が変わってきた。高3のインターハイのモスキート級の決勝では、WBO世界Sフライ級王者の井上尚弥(大橋)に完敗している。「ポイントをどんどん重ねられ。強かったです。でも、その負けが今の僕のモチベーションにつながっているか?と言えば違うんです」。
 関西大に進み、主将としての自覚が生まれ、ボクシングが楽しくなってくる。国体でも優勝。途中、競艇の試験も受けたが、落ちたこともあって、プロボクシングの道へ進む決断がついた。
「今ね、ボクシングを選んで良かったと思っています。勝った後の達成感、応援してくださる皆さんが喜んでくださる顔を見ることが、今のモチベーションですね」
 重量級に一時代を築いた父は、息子の姿を客観的に見守っている。
どちらかと言えば、北斗の拳の「ケンシロウ」に重なるのは、ガタイのいい父だ。ちなみに親子での日本王者は、野口進ー恭、カシアス内藤ー律樹に続き、3組目である。
「僕とはまったくスタイルが違う。そもそも体型違う。拳四朗は、腕も短いしファイタースタイルでしか活路は見出せない。僕を真似しろという方が無理なんです。息子のいい面を伸ばせばいいと思う」
ーー性格は?
「話をしてもらうとわかると思うんですが、僕なんかよりも、やさしいでしょう。でも二面性があって、闘争心。牙をむく瞬間がある」
 一時期、市議として政治活動をしていた父は、そう言って息子の汗をふいた。
 拳四朗は、リング上で年内世界挑戦を宣言した。
 プロモーターでもある父は、「アピールはできた。チャンスがあればやりたいが、何が何でもというつもりはない。取っても長くもてる力をつけてからでないと。今は東洋太平洋の話も来ている。ただライトフライ級には、日本人世界王者が2人いるので、日本人対決は、注目を浴びるし面白いですよね」と、慎重な姿勢だ。
 ライトフライ級には、この27日に防衛戦を控えているWBA世界ライトフライ級王者の田口良一(ワタナベ)、来月8日に初防衛戦のあるIBF同級王者の八重樫東(大橋)と2人の世界王者が君臨している。
 それだけにターゲットはリアルだ。
「すべては父に任せている」という拳四朗にどちらとやりたいか?と突っ込むと「田口さんの方がいいですかね。日本人同士だと盛り上がりますかね?」と、田口の名前を出した。
 田口とは、何度かスパーリングで拳を重ねていて陣営には確かな勝算があるという。
 ただスピード、コンビネーション、カウンター技術、そしてディフェンスもに、もうワンランク上げたい。
 ーー嫌いだったボクシング。今どう?
 後援者に囲まれ、騒がしい控え室で、耳元で、そう聞くと「もちろん、好きになってきました」と無邪気に笑顔を返した。可愛い童顔と、リング上の残酷さが強烈なコントラストを描く。世界チャンピオンになれば、その漫画の世界から拝借したリングネームも手伝って人気も出るだろう。
 親子のチャンピオン物語は、まだ序章である。

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