2016年4月15日金曜日

第6回 大友啓史×八重樫東

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2016希望郷いわて国体
第6回 大友啓史×八重樫東

―幼い頃からマンガを読む習慣がありました。「あしたのジョー」「がんばれ元気」「はじめの一歩」など、ボクシングに対する入口は、基本的にマンガ。それが、ただのきっかけに過ぎないんです。








大友:よろしくお願いします。僕、ちょうど年末は映画の撮影をしてたんですが、12月29日、撮影が終わってみんなで飲むことになって。だからタイトルマッチが見られなくてイライラしてたんですよ(笑)。
八重樫:ありがとうございます(笑)。
大友:翌日、ハードディスクで録画したのを見て、感動したんですけどね。八重樫選手の試合って、勝ち負け関係なく「見応えがある」って言われませんか?
八重樫:そうですね。もちろん勝ったらいろんな方に賞賛されますが、負け試合でも、こんなに評価をしていただけるのは、すごくありがたいですね。ボクサーの1敗というのは、競技人生を左右するような出来事なので。それでも、まだ見たいと言ってくださるファンがたくさんいるのは、本当にありがたいです。
大友:僕、演出家目線でどうしても見ちゃうんですが、すごく感情移入ができる試合なんですよ。そうじゃないボクサーの試合は、客観的に見れるし、勝ち負けだけが気になる。でも八重樫選手の試合は、いつも一緒に戦ってる気分になるんだよね(笑)。同郷だからっていうわけじゃないと思うんですけど。
八重樫:「泣いたよ!」「感動したよ!」っていう声をいただくんですが、自分で試合の映像を見ても、どこで泣いたり感動できるのか全然わからなくて。戦ってる本人だからわからないのかもしれませんが。自分に気持ちを投影してくれて、みんなで一緒に戦ってくれてると思うと、それこそボクサー冥利に尽きますね。
大友:2011年の秋、初めて世界タイトルを獲られたじゃないですか。あの年は震災があったし、そういう意味では、地元の人はすごいパワーをもらったんじゃないですかね。僕もあの試合は今見ても泣きそうになるもんねえ。
八重樫:本当ですか!ありがとうございます。
大友:黒沢尻工業高校出身ということですが、僕の時代の黒工はラグビーで有名だったんですよ。ボクシングも元々強いんですか?
八重樫:大友監督の高校時代は、たぶん岩手県のボクシング自体が、まるごと強かった時代だと思います。昔から東北はボクシングが強いんですが、その中でも岩手県はオリンピック選手も輩出していましたし、当時は強かったですね。
大友:でも、世界チャンピオンは八重樫選手が岩手で初めてですよね?ちなみに、どういう経緯でボクシングを始められたんですか?
八重樫:自分は、高校の部活で始めたんですが、友達に誘われたからという、きっかけは本当に小さなことでした。元々、バスケットボール部に入りたかったんですけど、黒沢尻工業はレベルが高くて、自分みたいな小柄な人間には絶対無理だろうなと思い、入るのを諦めました。それで、なんか違うことをやろうと思ったのがボクシングでした。
大友:でも、ボクシングはスポーツといっても、他とは一線違う感じがするんですけども。
八重樫:幼い頃からマンガを読む習慣がありました。例えば、「あしたのジョー」「がんばれ元気」「はじめの一歩」など、そういう本が周りにたくさんあったので、ボクシングに対する入口は、基本的にマンガだったんです。そういう感覚でボクシングを始めてみました。それこそ、大友さんが監督された「るろうに剣心」なんかも、僕が中学・高校時代にジャンプで連載されてましたし、あういうマンガってずっと読むじゃないですか。それが、ただのきっかけに過ぎないんです。
大友:ボクシングはスポーツでありながら、ある種、格闘技じゃないですか。僕も格闘技は好きだし、マンガも読んでたけど、自分がやるとなるとね…。実際にボクシングを始めてみてどうでした?
八重樫:最初はもちろん、怖いというイメージはありました。でも、高校に入りたての頃は40kg前後しか体重がなくて、体の大きい選手と対戦すると一方的にやられてたんですが、それが、ただただ悔しくて。当時は、そういった相手をやっつけるためにボクシングをしていたという感じですね(笑)。
大友:ボクシングを始めてみて、自分の中で変わったこと、発見できたことってあります?
八重樫:それまで自分の性格を「穏やかな、優しい人間」だと分析していたんですけど、ボクシングをやってるときの自分は、負けん気が強くて、イケイケの性格のところが出てしまうんですよ。「自分にはこういう一面もあったんだ」っていうのは、ボクシングをやって気づきましたね。
大友:そうですか。ケンカとかは強いほうですか?
八重樫:いやー、ケンカを売られても走って逃げるようなタイプなので、やったことはないですね。やられたことはあるんですけど…(笑)。

―初めて出場した熊本国体で入賞できたのが、その後の自信にもつながった。勝ったり負けたり、いろんな経験ができたので、国体は思い出深い大会ですね。

大友:岩手って、穏やかな人も結構多いじゃないですか。でも、どうしてボクシングやラグビーが強いんだろう?
八重樫:どうしてですかね?まあ、よく言われる「粘り強い性格」もそうだと思うんですけど、辛抱強くチャンスを待ったり、コツコツと練習を頑張ったりできる県民性なのかなと。あとは、内に秘めてる気の強さみたいなものは、どこかにあるのかなと思いますね。
大友:八重樫選手は、そのまま大学でもボクシングを続けられたじゃないですか。プロの世界を意識されたのはいつ頃なんですか?
八重樫:実は、高校のときに一度、プロのジムからスカウトをいただきました。でも、「お前みたいな田舎の少年が、急に東京でプロになってもダメだ」と当時の高校の先生に言われまして。じゃあ一度、東京という場所を知ろうと思って、進学という決断をしたんです。だから、元々プロに行きたいという野心みたいなものは、高校のときからありましたね。
大友:なるほど。そして大学に入って、国体のライトフライ級で優勝されたりしてますよね?
八重樫:そうです。大学2年生の高知国体のときだけですけど。
大友:そうすると、国体は思い入れとかあります?
八重樫:国体には、本当にたくさん行かせていただきました。高校2年生のとき、僕の1学年上にライトフライ級の選手がいたんですが、その先輩が減量がきつくて出場を辞退したんです。それで急に、1階級下の僕に話が来て、増量してライトフライ級で熊本国体に出場したのが、初めての国体になります。そして、その大会で3位になって、いきなり入賞できました。その後の自信にもつながったので、国体はすごく思い入れがある大会です。
大友:次の年はどうだったんですか?
八重樫:翌年は、インターハイは優勝したんですけど、国体は負けました。その次の年、大学1年生のときも途中で負けて(笑)。その次の大学2年生で、やっと優勝できました。勝ったり負けたり、いろんな経験をさせてもらいましたし、国体は本当に思い出深いですね。
大友:国体って、自分が予想したよりも強い選手がいたりして、プレッシャーとかありませんでした?だって岩手だと、敵がいないぐらい強かったんでしょ?
八重樫:いや、岩手は選手自体が少ないので、敵がいませんでした(笑)。ただ、国体は各階級の県対抗でも競うので、個人競技だけど「岩手県チーム」としてみんなで戦っているという感覚はありましたね。国体に出させてもらうようになってからは、学年が上の先輩ともすごく仲良くさせてもらったり、いろんな方々と接することができたので、人間的に成長させていただいた場でした。
大友:これから国体にチャレンジしていく若い後輩たちに対して、アドバイスはあります?
八重樫:自分の力を試せる一番いい場所だと思うので、緊張や不安もたくさんあるとは思うんですけど、今しかできないことだと思って、現場の空気を楽しんでほしいですね。あとは、年々いろんな県で開催されるので、その土地のいろんなモノ、場所を楽しむのもいいのかなと思います。
大友:そのとき出会った選手とかって、今はどうされてるんですか?
八重樫:アマチュアのボクシング界は狭いので、結構つながってるんですよ。知り合いと試合することもありますし、先輩、後輩と試合することもあるんです。国体で戦った選手とも、プロで試合をしましたし。その後の人生にも関わりのある人たちが、結構多いですね。
大友:なんかボクシングって、ものすごくロマンを駆り立てられるんですよね。ボクシングの映画を撮るのが、僕の生涯の夢なんですよ。
八重樫:ぜひ、よろしくお願いします。
大友:戦った者同士が、血まみれになって、ボコボコになりながら握手を交わす。そこにものすごく惹かれるんだけど、そういった感覚はあります?
八重樫:大友監督のおっしゃってることは本当にわかります。昨年末の試合もそうだったんですが、僕はスペイン語を話せるわけでもないし、向こうが日本語を話せるわけでもない。それでも12ラウンド戦い終わって、その36分間の中で、しゃべってもないのに互いにいろんな感情が湧くんです。そして試合が終わると、「お前強いな~」っていう気持ちになって、相手に尊敬の念が出てきて。あの試合は、お互いに力を出しきったので、なおさらだったと思うんですが、それがボクシングならではの魅力なのかなと思いますね。
大友:何かのインタビューで読んだんですけど、一度、ジムの会長に「もうボクシングを辞めたほうがいいんじゃないか」って言われたんですって?そのとき、奥さんが「辞めないで」って言ったみたいですが。
八重樫:そうですね。奥さんと子どもが「もうちょっと見たい」と言うので、じゃあわかったと(笑)。
大友:年末の試合は、3人のお子さんも見ていたと思いますが、子どもに感じてほしいこととかはあるんですか?素人の考えだと、あしたのジョーの白木葉子じゃないけど、お父さんが血まみれで戦ってるのは見たくないじゃないですか(笑)。
八重樫:まだ子どもたちは、10歳、5歳、2歳なので、別にボクシングをやれとは言いませんが、自分のお父さんの試合を見て、何かを一生懸命やり抜くことだったり、そういう気持ちの面で感じてくれればいいなと思ってます。大きな壁に当たったときに、「諦めないでやってみよう」と思える材料として心に残ってれば、という気持ちで今は戦ってる姿を見せています。あとは、大人になって子どもたちがどう思うかですけど。
大友:なるほど。あと、八重樫さんは岩手のいろんなスポーツ大会に参加されて、故郷の後輩たちと関わる機会も多い印象を受けますけど、それについても何か考えがあるんですか?
八重樫:岩手県は自分の生まれた場所なので、その地域の人たちにボクシングの良さを知っていただきたいっていう思いはあります。あとは、自分が参加することで喜んでいただけるなら、もちろん行きますし。でもやっぱり「岩手が好きだから」っていうのが一番の理由なんですけどね。いろんな人たちと会ってみたいので。
大友:なるほど。岩手はどんなところ?俺が聞くのもおかしいけど(笑)。
八重樫:岩手は良いところです。僕も常々、引退したら岩手に帰ろうとは思ってまして。実はうちの奥さんも金ケ崎出身なんです。同じ岩手県人なので、本当は子どもたちを岩手で育てたいなとは思ってたんですけど、まあ仕事柄しょうがないので(笑)。

―これまで応援してくださった方々や、ボクシングに出会わせてくれた高校に恩返しをしたい。どういう形であれ、岩手とこれからも関わっていきたいです。

大友:「希望郷いわて国体・希望郷いわて大会」がいよいよ近づいてきましたけど、どういうふうに関わっていきたいですか?
八重樫:せっかく、自分の地元で行われる大会なので、何かしらの形では関わりを持ちたいとは思ってますね。それがどういう形になるかはわかりませんが、幸い、昨年末にチャンピオンになれたので、秋の国体までは、自分もチャンピオンでいたいなとは思います。その上で、何か自分にできることがあればやっていきたいです。
大友:3階級制覇ですもんね!このまえ、年末に自撮りした体をブログで見たけど、やっぱりすごいね!(笑)あの体まで持っていくのに、何kgぐらい体重を絞ってるんですか?
八重樫:計量直前になると、9kgぐらい落とします。
大友:9kgをどのぐらいの期間で落とすんですか?
八重樫:3週間弱ですね。あまり長いスパンでやってしまうと、気持ちもダレてきて疲れちゃいます。それでも3週間はかけないと、コンディションを崩してしまうので。
大友:なるほど。3週間で9kg落とすというのは、これまでの体験から、なんとなく計算できるんですか?
八重樫:そうですね。「ここまでの期間で、ここまで体重を落とそう」というのを逆算して、3週間で落としてく感じですね。
大友:余談ですけど、今仕上げしてる映画で、寝たきりのお父さんの役があって、寝たきりになると筋肉とか落ちるじゃないですか。オーディションしても、役者はみんな背が高くて筋肉隆々だったので「それじゃあできないね」って言ったんです。そしたら「なんとか落としますから映画に出させてください!」っていう熱心な役者が、2週間で10kg痩せてきましたね。
八重樫:すごいですね!どうやって痩せたんですかね。
大友:食わない、寝ない、これをひたすらやったみたい。顔もこけて、髭もボーボー生やして、その役を演じてましたけど。
八重樫:すごいですね。それこそプロですよね。やっぱり、命かけてますね。
大友:いやー、でも八重樫選手のブログの写真を見ても、肉体が研ぎ澄まされていくと、顔とか変わりますもんね。
八重樫:そうですね。あと、試合に向けて気持ちを作ることも大事で、いつも「試合の次の日はない」と思ってるんですよね。今回でいうと試合があった12月29日、その日がとりあえず自分の終わりの日なんですよ。そういう覚悟を作っていく作業も兼ねて、体重を落としていくので、気持ちもどんどん変化していきます。
大友:つまり12月30日以降のことは考えないってことですか?
八重樫:考えられないですね。試合終了のゴングが鳴ってから、「明日もあるんだ」っていうような感じになるので。
大友:うわっ、すごいですね。
八重樫:そういう覚悟を作らないと、やっぱりリングに上がってはいけないというか、相手にも失礼だし、周りの人にも失礼かなと思いまして。
大友:一家の家長として、ご家族と幸せな日常を過ごしているのに、試合当日にすべてを注ぎ込むスピリットを作っていくのって、ある種、捨てていく作業でもあるんですよね?
八重樫:そうですね。結構、矛盾してるんです。子どもたちの将来を考えていろんな人生設計をしなきゃいけない自分と、年末の試合までしか存在しない自分がいる。でも、試合が近くなるにつれて、前者の自分は一回どこかに置いて、後者の自分と向き合っていかないと、覚悟は作れないのかなと。
大友:個人的な興味ですが、そうすると朝は何時に起きてるんですか?
八重樫:朝はだいたい6時半~7時に起きて、ロードワークをします。ただ、試合がないときは、一番最初に子どもたちを起こして、朝ごはんを作って、みんなを送り出してから自分のロードワークが始まるので、9時過ぎから走り始めることもあります。試合が近くなってくると、自分中心の生活になるので、時間は変わっていくんですが。
大友:試合ありきの生活が始まるのは、どのぐらい前からなんですか?
八重樫:だいたい試合の2~3ヶ月くらい前ですかね。
大友:なるほど。映画と一緒だね!(笑)撮影が決まってからの2~3ヶ月ぐらい前から準備するんで。
八重樫:そうなんですか!
大友:そうなんですよ。そうやって、試合に備えていくわけですもんね。
八重樫:そうですね。でも、お仕事なので、もう慣れっこです(笑)。
大友:そうですか。ちなみに、未来のことを考えずに試合をされてるということですが、プロボクサーとして、またはご自分の人生で思い描いている未来はあります?
八重樫:33歳になるので、ボクサーとしての寿命はそんなに長くないというのは自覚しています。だから今後は、対戦相手や階級にもよりますが、一戦一戦に重きをおいて、その1試合を大切に作っていきたいです。それが自分のやるべきことなのかなと思ってますね。
大友:本当に、1試合ごとに良い対戦相手を選ばれてますもんね。俺が言うのもおかしいけど(笑)。相手も素晴らしいし、そこに手抜きがない。だから、密度がすごく高い試合をいつも見させてもらってるんですよね。
八重樫:ありがとうございます。やっぱり「こいつとやったら面白いな」っていう相手じゃないと、僕自身が燃えてこないことに最近気付いたんですよね。だから、3階級制覇をしましたけど、僕はそこに重きをおいていませんでした。どういう人間と戦うかが、自分の一番のモチベーションにつながるっていうのは、この前の試合で思ったんですね。
大友:つまり、評価とか結果ではないということですよね。
八重樫:そうですね。もちろん、そこをモチベーションにする方がいても全然おかしくないし、良いことだとは思います。でも、僕としては「誰と戦うか」が大事なんです。本当に興味のある人間と試合したいっていうのが、個人的な思いです。
大友:俺が勝手に思ったことなんだけど、なんか岩手県人っぽいね(笑)。東北の人っぽい。
八重樫:本当ですか?(笑)そう言っていただけると嬉しいです。
大友:最後に、地元の岩手に対して、未来への思いなどはありますか?先ほど、引退したら岩手に帰られるとおっしゃってましたけど。
八重樫:岩手が好きなので、帰りたいんですよ。岩手に帰ったら、もちろんボクシングに携わりたいですし、そうでなくても、これまで岩手からずっと応援してくださった方々だったり、ボクシングに出会わせてくれた高校にも、いろんな恩返しをしたいです。どういう形であれ、岩手とこれからも関わっていきたいなとは思いますね。
大友:次の試合はいつなんですか?
八重樫:まだ全然決まってませんが、個人的には、5~6月頃にはやりたいですね。
大友:防衛戦だ。
八重樫:はい、防衛戦ですね。だから、防衛戦の相手を選ぶときも、またいろんなことを吟味していかなきゃいけないのかなと。もちろん自分の気持ちが入る相手じゃないと、ダメだと思うので。
大友:やっぱり自分の気持ちが入っても、相手も気持ちが入ってくれないと、良い試合にならないですもんね。
八重樫:そうなんですよね。自分の気持ちが入っていて、相手が気を抜いていれば、あとはもうやっつけるだけですが、僕が試合をしたいと思う相手は、一戦一戦、力を出しきってくる選手だと思うので。そう考えると、どのみち激闘になるかと思います(笑)。
大友:僕も「作る」人間として、八重樫選手には、素晴らしい作品を見させてもらっている感覚があって。毎回、感動してます。
八重樫:光栄です。そう言っていただけると、本当にありがたいですね。
大友:今日はありがとうございました。ぜひ頑張ってください。
八重樫:またよろしくお願いします。ありがとうございました。

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