2016年1月29日金曜日

日本ボクシング界が分岐点

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Boxing Times 2016.01.28
2016年、日本ボクシング界が分岐点を迎える
2016年は日本のボクシング界にとって重要な年になりそうである。現在9人いる日本人世界タイトルホルダーの中で、WBO世界スーパーフライ級王者の井上尚弥(大橋)、WBA世界スーパーフェザー級王者の内山高志(ワタナベ)という2人のアメリカ進出が期待されている。日本からの願いが一方的に高まっているのではない。この2人に関しては、アメリカの熱心なファン、関係者からも渡米を待望されていると言って良い。
「私たちHBOはマイケル・カルバハル(元WBC、IBF、WBO世界ライトフライ級王者)をスター候補として売り出し、成功を収めた。ウンベルト・“チキータ”・ゴンザレスとの直接対決はビッグビジネスになった。私の経験から言って、115パウンド以下の優れた選手たちは、他の階級のファイターと同じように好ファイトを演出してくれる。良い試合でファンを喜ばせることさえできれば、井上もHBOのビッグスターになれるよ」
井上がアメリカでスターになる可能性について聴くと、HBO の非公式ジャッジを務めるハロルド・レダーマンはそう答えた。同局の解説、実況を務めるマックス・ケラーマン、ジム・ランプリーがその名を何度も口にしていることから見ても、HBOが井上に興味を持っていることは明白だ。
タイミングが良いことに、HBOは軽量級の雄ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)を積極的に登用する姿勢も打ち出している。米ボクシング界に多大な影響力を持つ同局にしても、ゴンサレスにハイレベルの対戦相手を見つけ続けることは容易ではない。近い将来に間違いなく井上に食指を伸ばすはずだ。
順調に運べば、ゴンサレス対井上戦は、レダーマンが例に挙げたカルバハル対チキータ以来最大の軽量級ファイトとして注目を集めるだろう。実現は恐らく2017年。そのために、2016年に井上がやっておくべきことは何か。
「現時点での井上がまずアメリカでの露出の機会を必要としているのは事実だ。(ゴンサレス戦を具体化させる前に、)まず1試合は行わなければならない。ファイトを実際に観れば、誰もが彼に注目するはずだ」
レダーマンが語る通り、テレビ局、一部のマニアックなファンにはその名を認識されているとはいえ、井上の一般的な知名度自体は高いとはいえない。2014年の大晦日にオマー・ナルバエス(アルゼンチン)を鮮烈にKOした映像はアメリカでも出回ったが、その後の負傷休養は返す返すも残念だった。
話題性回復のために、ベストはやはりブライアン・ビロリア(アメリカ)、ハーマン“タイソン”マルケス(メキシコ)といった著名どころとアメリカで試合を行うこと。いきなり好条件を期待すべきではない。メインイベント扱いは難しいし、試合会場も日本人がこだわるラスベガスではないかもしれない。ただ、ゴンサレス戦の機運を盛り上げるために、最高レベルではない条件でもまずは一戦を行い、実力をアピールしておくことの意味は大きい。
指名戦の関係で2016年前半に渡米戦を行うのが難しいのであれば、大興行の記者会見などに顔を出し、存在をアピールしておくのも良い。
例えば4月23日にニューヨークのマディソン・スクウェア・ガーデンで予定されるゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)、ゴンサレスのダブルヘッダー興行に井上が顔を出せば?リングサイドに座る姿はHBOのカメラに捉えられるはず。記者のワークルームでも地元メディアに囲まれることは間違いない。
日本が産んだ史上最高レベルの才能である井上は、母国だけに止めてはならない逸材である。だからこそ、周囲も積極的に動くことを期待したい。強さに加え、何らかのプラスアルファが求められる米リングを意識し、早いうちから商品価値を上げる努力を望みたいところだ。
(※4月23日の興行は確定ではなく、出場選手、会場は変更の可能性あり) 

一方、内山の方は、元WBA世界フェザー級王者ニコラス・ウォータース(ジャマイカ)との対戦が有力と囁かれる。決定までは予断を許さないが、実現すれば場所はアメリカ国内が濃厚。“日本のエース”と呼べる存在であり続けた強打者は、本場のファンの前でついにそのパワーパンチを披露することになる。
「ウォータースの最大の長所は身体能力、もともと持っている能力。(パンチを)よけた瞬間に自分のバネで打ち返してくる。よけた後、どんな態勢からでも強いパンチが打てる。それが一番の持ち味。教えて打てるものではないというか」
内山本人がそう分析する通り、ウォータースの魅力はその野性的な能力とパワーパンチである。成熟した攻守が売りの本格ファイターである内山とは噛み合いそうで、迫力満点のファイトが期待できそう。どちらがKO、判定で勝っても不思議はなく、予想の難しい一戦。正式に決まれば、しばらく内山の渡米を楽しみにしていたアメリカのボクシングマニアたちも歓喜することだろう。
「僕は36歳なので、前座を何試合かこなしていくには遅い。そういう意味ではもう少し前にやれていればとも思います。ただ、これまで生きて来る中で、僕は運は良かった方だと考えています。今こういう話が出てきたということは、逆にこの時期が良かったのかなと。これからアメリカで名前を売って、数試合でもできれば良いですね」
すでに11度の防衛をこなした後で、少々遅い段階での海外挑戦について聴くと、内山はそうこぼしていた。確かにもう少し若ければ、“アメリカのウチヤマ”をじっくりと育てていくことができたのは事実だろう。ただ、あるHBOの重役が匿名を条件にこう語っていたことは付け加えておきたい。
「私は実はウォータースよりも内山の方を高く買っているんだ。彼を起用することに躊躇いもないし、私自身が試合を観れるのを楽しみにしているんだよ」
ウォータース戦を好内容でクリアすれば、その先への夢も膨らむ。近い階級にはワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)、ユーリオルキス・ガンボア(キューバ)といったビッグネームも揃っている。満を持して登場する日本の切り札が、遅まきながらビッグファイト路線に名乗りを挙げる日を待ちたいところだ。
その他、昨年11月21日にフランシスコ・バルガス(メキシコ)と大激闘を繰り広げた三浦隆司、同じく11月7日にはマイアミでウォルター・カスティーヨ(ニカラグア)と好ファイトを展開した小原佳太(三迫)の2人も忘れてはいけない。三浦は壮絶な9ラウンドTKO負け、小原は不当に思える判定で引き分けに終わった。しかし、両者の評価はこの渡米初戦でむしろ上がり、それゆえに再びアメリカのリングから声がかかる可能性は高い。
全世界に競技人口を誇り、真の意味で“世界的なスポーツ”と言えるボクシング。それにも関わらず、過去の日本人の世界王者たちはほとんどのタイトル戦を日本国内で行ない、知名度的にも国内限定だった。しかし、そんな閉鎖的な状況に少しづつ変化が見えてきている。
ボクシングをエンターテイメントと考えるアメリカでは、単なる勝ち負けだけでなく、試合の面白さも追求される。井上、内山は、その舞台にも胸を張って送り出せる王者たち。三浦、小原に至っては、昨年中にすでに本場のファンを喜ばせられることを証明している。彼らが2016年も活躍を続ければ、日本のボクサーがより好意的に、良い条件でアメリカに迎えられ始めることになるかもしれない。そういった意味で、2016年は重要な1年になる。
WBA、WBCといったいわゆる”アルファベットタイトル”を獲得するだけでなく、本場のファンからも認められ、彼らを喜ばせることもできる人気王者へ。日本のボクサーが次のステップを踏み出す瞬間が、間近に迫っている。

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