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笑わせるなよ泣けるじゃないか2 2020-01-03 06:04
八重樫東の不屈
先日のトリプルボクシング世界戦、村田涼太選手の緻密さと迫力はまさに盤石の強さを実感しました。
オリンピック金メダリストをひっさげ、鳴り物入りでプロ転向。
華々しいデビューを飾るも、世界タイトル防衛戦では完膚なまでに叩きのめされ、屈辱と深い精神的ダメージを負いました。
引退も囁かれる中、弱点を克服し攻撃スタイルを変えて不死鳥の如く復活。
恐ろしい程の強さで世界タイトル奪還を果たしました。
年齢ゆえにもう後がないという闘いに賭ける、落ち着きと静かな迫力。
屈辱を耐え忍び、復活への狼煙を窺う男の美学は共鳴出来る部分が大きいです。
一方で、
八重樫選手は三つの世界タイトルを獲得するも、最近の敗戦ぶりは結果的に元王者の誇りを汚すものばかり。
元王者としては異例の6敗、ボクサーとしてはもう若くない36歳にして、不屈の魂で挑む姿は、
村田選手とは違った、悲壮感漂う男の美学を感じました。
今回も年齢による不安は感じませんでしたが、またも打たれ弱さを露呈した結果になりました。
もうダメだと言われると、やってやろうと奮い立つ
チャレンジャーであることに居心地の良さを感じる
村田選手のような迫力や生まれながらの資質は別次元の憧れの世界。
八重樫選手の上記二つのセリフは逆に心に沁みいりました。
平穏な毎日に感謝するばかりの生活。
反動でいつかとんでもない不幸に襲われるのではないかという不安を持つほど。
新たに商売を始めるにあたり、攻めの気持ちを込めて
決して焦らずとも、黒字化を果たすためにあらゆる知恵を絞ろう
老体ながらチャレンジャーの心意気で頑張ろう
そんな風に背中を押されました。
以下はボクシングPRESS 日比野恭三さんの記事抜粋
カッコいい引退はできないので……。
世界戦TKO負け、八重樫東の不屈。
12月23日、横浜アリーナ。セミファイナルに登場し、4度目の世界王座獲得をもくろんだ八重樫東は負けた。
窮地に立った第9ラウンドをなんとかしのぎ切るかと思われた2分54秒、レフェリーが試合を止めた。パンチを繰り出し戦う姿勢を見せていた挑戦者は数秒間、呆然としたあと、抱きついてきたレフェリーの首元に顔をうずめた。
終わってみれば、王者の強さが際立った試合だった。IBF世界フライ級チャンピオンのモルティ・ムザラネは、2008年11月のノニト・ドネア戦で負傷判定負けを喫して以来、10年以上負けていない。37歳のいまも、加齢による衰えはまるで見えない。
八重樫は時に勝利の可能性を感じさせる局面をつくりながら、難攻不落、堅牢な城のごとき王者の壁を打ち崩すことはできなかった。
対策ポイントから漏れていた右ストレート。
展開上の節目のひとつは、第4ラウンドだった。それまで足を使っていた八重樫が、打ち合いに踏み切った。だが、ファイトスタイルの変更を機に強打を的確に打ち込み始めたのはムザラネのほうだった。
顔面に拳を受け、残り時間が1分ほどになったとき、八重樫が両のグローブを目の前でパチンと合わせる。
挑戦者は、戦前から「我慢比べになる」と予想していた。さあ、ここからだ。その仕草は、闘志を一段上へ高めるスイッチであり、自身への鼓舞に見えた。
敗戦後の控室で数十台のICレコーダーを差し向けられた八重樫は、言った。
「(ムザラネの)プレッシャーがかかってきて、(足を使う戦い方で)最後まではいかないと思っていました。どこかで入らなきゃいけない、と。いい入りだったのかなと思う。予想以上に(激しく打ち合う)コリアンスタイル的なものを嫌がっているようにも思えた。そこをもっとしつこくやっていけば、いけるかなっていうのはちょっとあったんですけど……」
誤算として挙げたのは、ムザラネの右ストレート。対策すべきポイントからは漏れていたという。
「ぼくが我慢する予定だったんですけど……」
第8ラウンド、左ボディを機に攻め込まれて腰を落とした場面も、その前にもらっていた右に「気が向いていた」と分析した。
劣勢を強いられながら手を出し、局面の打開を試みたが、顔色を一切変えないムザラネにマシンのごとく攻め込まれる。第9ラウンド終盤、セコンドについていた大橋ジムの大橋秀行会長がいまにもリングに飛び出しそうになり、制止される。その直後、レフェリーはストップを決断した。
「負けちゃいました、我慢比べ。ほんとはぼくが我慢する予定だったんですけど……気合いが足りなかったですね」
八重樫は完敗を認めた。
「そういう人たちを黙らせるため」の再起。
遡ること2カ月、10月に話を聞く機会があった。進退に関する話題で言葉を交わした。
ムザラネ戦を除いても6つの負けを記録している36歳のプロボクサーが引退の瀬戸際に立たされたのは、一度や二度のことではない。そのたびに戦う理由を見つけてはリングに帰ってきた。
いや、より的確な表現としては「まだ辞められない言い訳や屁理屈をひねり出して」リングに帰ってきた。
最大の危機は2017年5月、1ラウンドKO負けしたミラン・メリンド戦だ。「打たれもろくなっている」との評にさらされた八重樫は「そういう人たちを黙らせるために」再起を決めた。
「『あいつはもうダメだ』って言われたら『うるせえよ』ってなるんです。逆に『次は八重樫が絶対に勝つよ』と言われる試合ほど不安なものはない。そういうふうに生きてきたので」
筆者が「こじらせてますね」と相槌を打つと、八重樫は「はい、だいぶやっちゃってます」と笑っていた。
「カッコよく引退できるボクサーじゃない」
ムザラネ戦を前に、八重樫は「挑戦者という立場が自分に合っている」と繰り返した。また悪魔のささやきを聞いたような気がした。
もうダメだと言われると、やってやろうと奮い立つ。
チャレンジャーであることに居心地のよさを感じる。
共通しているのは、そのメンタル構造には終わりがないということだ。厳しい状況に追い込まれたときほど復帰を後押しする思考法が、八重樫には染みついている。
だから、「八重樫もさすがに最後」とのムードが漂う今回の敗戦も、どんな結論にたどり着くかはわからない。
とはいえ、いつか来る終わりのときから目を背けているわけではない。幕の閉じ方について、こんな話をしていた。
「どんなふうになっても、転んで(負けて)ゴールすると思う。ぼくは(3階級制覇を最後に引退した)長谷川穂積さんみたいにカッコよく引退できるボクサーじゃないので。そうしないと、自分自身、ゴールテープを切れないんじゃないかな、と」
「人に言い訳できないくらい完膚なき負けを経験したときはもう、それこそ自分が納得するところだと思います」
結論を出せるのは八重樫本人だけ。
もろさを否定するために復帰した八重樫は、ムザラネとの我慢比べに負けた。同じ言い訳は2度は使えないから、絞り出せる言葉はどんどん減っていく。
会見では、「いまの状態では何も言えないかもしれないけど、そういうこと(進退について)を考えなきゃいけない実感もある」と語っていた。
再び立ち上がるための「言い訳」が、八重樫の中にはまだ残っているのだろうか。おそらく長期戦になるであろう綱引きは、どちらに軍配が上がるだろうか。
結論を出す権利を、八重樫は持っている。それは、度重なる激闘の勲章として与えられたものであり、誰も奪うことはできない。
ほかの誰でもなく、八重樫自身が発する言葉を、ただ待つだけだ。
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