https://goo.gl/yGBMF6
iRONNA
「亀田3兄弟」の日本復帰が意味するもの
ボクシング史上初の3兄弟で王座を獲得した「亀田3兄弟」の三男、亀田和毅が協栄ジムと所属契約を結んだ。「負けても王座防衛問題」をめぐり、亀田ジムの資格がはく奪されて以来、2年ぶりの日本復帰である。あの「お騒がせ」ファミリーと日本ボクシング界が突然歩み寄りをみせた背景に何があったのか。
スポーツ時事放談
日本ボクシング界が「亀田3兄弟」にすり寄らざるを得なかったワケ
ボクシング界のお騒がせファミリー「亀田三兄弟」が世間の注目を集め、まず長男、亀田興毅が世界タイトル獲得に成功した当時、私はレギュラー出演していたTBSラジオの番組でタイトルマッチの感想を求められ、
「亀田三兄弟は、僕の中には存在しません」
と言い、それ以来、彼らについては一切言及してこなかった。
TBSといえば、亀田三兄弟を積極的に売り出すベースになったテレビ局だ。が、番組スタッフは僕の気持ちを受け入れてくれた。
率直なところ、亀田三兄弟を、スポーツライターとしてどのように位置づけ、応援もしくは論評すればいいのか、道が見えなかった。
話題性、タレント性、テレビ局が好むキャラクター性は抜群なのだろうが、少年時代からボクシングに胸を熱くしてきたスポーツライターには、自分の中にあるボクシングの憧憬や敬意と、亀田三兄弟や彼らを指導する父親の振る舞いがどうにもつながらなかった。
今回、ずっと揉めていた日本のボクシング界と亀田家が歩み寄り、唯一現役でボクシングを続けている三男、和毅の日本での試合が実現する可能性が出てきたと報じられた。かつて所属していた協栄ジムの金平桂一郎会長が間に入って調整、興毅氏が合意したという。
この報道を受けて、iRONNA編集部から論考を求められた。少し違う角度から、この問題で本当はみんなが認識し、議論すべき核心があることを提言したい。
ボクシングに限らず、テレビやスポンサー各社が結びついてスポーツを盛り上げようとする時代の中で、「受ける」「儲かる」「人が集まる」は大前提になっている。視聴率、売り上げ、観客動員などが評価のバロメーターになり、質はあまり問われない。
勝負なら「結果」がすべて。勝てば官軍、多少の不正や汚い手を使っても勝った方が権勢を振るい続ける。そこに文句を言っても、天に唾するようなものかもしれない。だが、スポーツは少年少女、そしてもちろん老若男女の心身を直接育みもすれば、傷つけもする。実はとても責任重大な分野だという現実をあまりにも忘れてはいないかと思う。
スポーツライターを志す大半が、かつてはボクシングをテーマに書きたがった。ボクシングには、文学的な陰陽があり、ドラマ性を持ちやすかった。沢木耕太郎さんの名著『敗れざる者たち』の中に描かれた輪島功一、『一瞬の夏』のカシアス内藤の生き様に多くの読者が深く揺さぶられた影響もあっただろう。
私も駆け出しのころ、足繁く後楽園ホールに通った。雑誌の取材で縁ができ、当時、連続ノックアウトで売り出し中の人気ボクサーを繰り返し取材させてもらう幸運にも恵まれた。世界タイトルに挑戦した彼は無念にもTKO負けを喫し、タイトル奪取は叶わなかった。取材の過程で、その連続ノックアウト記録が、話題を作り、人気を盛り上げてタイトルマッチを実現するためのジムとテレビ局の共同作業だったと知った。
そのような戦略は、興行の世界では日常的にあることだというが、ボクシングは、人と人とが殴り合う競技だ。グローブこそつけているが、パンチの衝撃が時には死をもたらすことは、過去の例が物語っている。
果たして彼もまた、試合中の打撃で意識を失う事故に遭った。病院に運ばれ、開頭手術を受け、生死の境を彷徨った。一時は回復は難しいとの見解も伝わった。幸い彼は一命を取り留め、その後は役者として存在感を放っている。だが、あの事故を知らされたときの衝撃をいまも忘れることができない。
同時に、後楽園ホールの試合で魅力を感じた、10代のボクサーをも追いかけていた。長身でスマートな彼は、どこか大場政夫を思い出せた。話してみると、やさしげな少年だった。その彼が、格上ボクサーと戦い、殊勲の勝利を挙げたまでは順風満帆だったが、試合の数日後、相手ボクサーが亡くなる事故が起きて彼は精彩を失った。紆余曲折しながらボクシングを続けた彼が、ロサンゼルスのジムでトレーニングを積み、やがて帰国して地方のリングで日本タイトルを獲得する折々を私は見つめ続けた。
そう書けば美しいドラマになりそうだが、現実は甘くない。やさしそうな彼が、日ころ、不当と思える扱いを受けるとすぐ拳を振るい、暴力で他人を圧倒する癖を持つことを知って、呆然とした。プロボクサーは、リング以外では決して拳を使わないと言われているが、現実は理想通りでないことを知り、私はボクシングを安易に美化してはいけないことを身をもって痛感した。
それは、「安易にお金儲けに使ってはいけない」という戒めにも通じるだろう。
ずっと海外のリングでファイトし続けてきた三男、和毅が日本のリングに立つことができれば、ファンにとっては待望の試合が実現するわけだし、和毅自身にとっても可能性が広がる。明日ある若者の活躍の場が与えられることは喜ばしい。
それは同時に、「いずれはジムの会長になって、ボクシング界に恩返ししたい。盛り上げるアイデアはたくさん持っている」という趣旨のコメントをした長兄、興毅の日本ボクシング界復帰の道を開く糸口にもなる。
少年のころ、沼田義明と小林弘の日本人対決に言葉をなくして見入った思い出がある。輪島功一の敗北も、奇跡とも評された逆転勝利も、胸を熱くして見た。辰吉丈一郎と薬師寺保栄の対決も身体の中に戦慄に近い感覚を抱えて見つめた。
日本のボクシング界も亀田三兄弟も、ボクシングがただの見世物でなく生死と紙一重の勝負であることは、門外漢に言われるまでもなく分かっているに決まっている。そして、リング上で繰り出すパンチと暴力が紙一重だという認識をさらに直視した上で、今後の指導や運営に当たってほしいと切に願う。
0 件のコメント:
コメントを投稿