2022年10月15日土曜日

4団体統一へ ボクシング井上尚弥選手 王者の素顔と見据える先

 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221014/k10013858791000.html

NHK NEWS WEB 2022年10月14日 18時32分

4団体統一へ ボクシング井上尚弥選手 王者の素顔と見据える先

プロボクシングバンタム級の3団体統一チャンピオン、井上尚弥選手が4団体王座統一をかけて対戦することが発表されました。その井上選手に、今回の発表後としては初めてとなる単独インタビューを行いました。語られたのは、この一戦を「バンタム級の最終章」として臨む意気込みと、そらにその先でした。(聞き手 堀菜保子アナウンサー)

“世界初”の快挙に挑む井上尚弥選手


井上尚弥選手は29歳。ボクシング界の主要4団体のうち、WBA=世界ボクシング協会、WBC=世界ボクシング評議会、IBF=国際ボクシング連盟のバンタム級チャンピオンです。

ことし12月13日に東京の有明アリーナで4団体王座統一をかけてWBO=世界ボクシング機構のチャンピオンで、イギリスのポール・バトラー選手(33)と対戦することが発表されました。

主要4団体統一となればバンタム級では世界初の快挙で、井上選手がボクシング界で新たな歴史を作ることができるか大きな注目が集まる一戦となります。

その井上選手に、今回の対戦の発表後としては初めてとなる単独インタビューをしました。

まずは4団体王座統一に向けての意気込みや準備状況を語りました。

井上選手


「ボクシングにおける記録のかかった試合となります。試合まであと2か月なので、気合いを入れてやるだけです。今は試合に向けてどうやってトレーニングしていこうかなとか、どうやって『緩急』をつけていこうかなとかを考えています。まだ2か月あるので、ここからの組み立てだったり、気持ちの持っていき方だったり、そういうところを大切にしていて、今は自分が『勝てるイメージ』や『うまくいかないイメージ』の両方のパターンをイメージしながらトレーニングをして過ごしていますね」

“バンタム級でナンバーワン”がほしい

井上選手は2014年、WBC=世界ボクシング評議会のライトフライ級の世界チャンピオンとなったあと、スーパーフライ級でもWBO=世界ボクシング機構のチャンピオンになりました。そして、2018年にはバンタム級で世界チャンピオンとなり3階級制覇を果たしています。

Q 今回の対戦でもさらに階級を上げて対戦をするといった選択肢がある中で、4団体王座統一を目指す選択をしましたが、その理由はなんでしょうか。

井上選手

「階級を1つ上げて試合をするような選択肢はあったのですが、やはりバンタム級でナンバーワンというものがほしかったんです。前々から4団体統一をしたいという気持ちが強かったので、ここに向けて決めていきましたね」

「モンスター」の原点

井上選手は19歳でプロデビューして破壊力のあるパンチを持ち味に勝利を重ねました。


プロ6戦目で世界チャンピオンになり、プロでの通算成績は23戦負けなし。その強さからついた異名は「モンスター」です。

Q「強い相手としか戦わない」というポリシーがあるということですが、それはどのような思いからなのでしょうか。

井上選手

「デビュー当時、所属するボクシングジムと契約する時に話したことです。自分自身が成長するためには、格下の選手とやっても試合を通して成長しないと思っていました。日々のトレーニングでも成長を感じるのですが、いちばん成長を感じるのはリングの上、つまり本番の試合のリングなんです。実力が自分と同等の選手や、より強い選手とやって勝っていくことが自分自身の成長に大切なことかなと思っています。試合を通じた成長を大事にしています」

王者の素顔に迫る

井上選手の素顔に迫ろうと渋谷と新宿で道行く人に質問を寄せてもらいました。

Q 朝食は何を食べていますか(20代男性)

井上選手

「朝食は一切食べないです。というのも朝起きてすぐにロードワークするので自然にそういう生活リズムになったという感じです。学生の時は朝食を食べてました。ですがプロ転向してから自然とそういうリズムになっています」

Q 年齢とともに衰える感覚はありますか(40代男性)

井上選手

「衰えた感覚は一切ないですね。ただ体の脂肪の付き方や筋肉の付き方などの『体つき』はデビューした10代から比べると変わってきているとは思います。そうしたことは、あまり気にしないようにしています。ストレスなくやることが大事かなと思っています」

Q ふだんよくやっているリラックス方法を教えてください(30代男性)

井上選手

「本当の意味のリラックスといえば、音楽を聴いたりするのが好きです。ジムに車でいく間に音楽を聴きながら向かいます。歌ったり口ずさんだりとかしていますね。そういう時間がリラックスのひとつで、自分は大事な時間かなと思っています。音楽のジャンルは幅広く何でも聴いています。カラオケでよく歌うのは浜田省吾さんとかスピッツさんとかですかね」

Q ボクシングをしていなかったらどんな仕事をしていたと思いますか(20代男性)

井上選手

「どんな仕事ですか…まったく想像つかないですね。小学1年生からボクシングをしてるので。それから本当にボクシング1本でやってきています。やはり想像がつかないですね。ただ、あえて言うなら、父が塗装業をやっていまして、塗装業しながら自分たちのトレーニングを見ていた時期がありました。ボクシングをやっていなかったら、塗装業をやっていたのかなという気もします」

本当に自分の好きなことをやっている

Q 井上選手にとってボクシングはどういうものですか

井上選手

「仕事と言えば仕事なのですが、かといって仕事かというと仕事ではないんです。生活の大半を占めているものなので、単に『仕事やってるぞ』という感覚はないんですよね。本当に自分の好きなことをやっているという感じです」

Q 試合前に恐怖を感じることはありますか(20代男性)

井上選手

「試合前の恐怖ですか…。『恐怖の波』という感じの波はあります。試合前日の夜などに寝る前は、『勝つイメージ』もしますけど、『よくいかなかったイメージ』ももちろんするんです。そういった時に、これまで10年間、負けなしでやってきましたが、これが『崩れてしまうのではないか、壊れてしまうのではないか』という恐怖は、やっぱり波のように思うことはありますけどね。ただ、試合の直前にはなくなります。『ふっきれている』し、やってきたことを信じてリングに上がるだけです」

Q 試合前日の恐怖にはどう向き合っているのでしょうか

井上選手

「やることはすべてやってきた自負はあるので、結果がもし出なかったら『自分より相手が強いだけ』というぐらいに仕上げておかないといけません。悔やむ気持ちにならないように日々のトレーニングをしっかりやろうと思ってます」

元世界チャンピオンのフィジカルトレーニング 

井上選手がこの1年ほど取り組んできた新しいトレーニングがあります。


コーチに元世界チャンピオンの八重樫東さんを迎えて、ボクシンググローブをつけずにフィジカルトレーニングにも励んでいるのです。

このトレーニングは井上選手からお願いして週2回行い、「八重トレ」と言われているということです。

元世界チャンピオン 八重樫東コーチ

八重樫コーチ


「鍛えるパーツとしてはやはり下半身がメインです。体重を拳に伝える使い方を常にやっています。下半身、足の力を使って『前に』というイメージです。これから時間とともに加齢による能力の低下みたいなものが出てきますが、彼のパフォーマンスをできるだけ落とさないように維持することもねらいです」

井上選手

「いずれは階級を上げていくというのを見据えているので八重樫さんのフィジカルトレーニングなど、年齢を重ねていくごとにトレーニング方法も変えないといけないと思っています。八重樫さんは30歳を超えても現役のトップで走り続けた先輩なので、八重樫さんの知識とか、練習方法を知りたいなと思ってお願いしました」

チャンピオンであり続ける難しさ

井上選手は2014年に最初に世界チャンピオンとなってから、8年もの間、世界のトップに居続けています。

Qチャンピオンになってからも「体」や「心」を維持し続けることの難しさを感じますか。

井上選手


「体の維持についてはそれほど難しさを感じたことはないのですが、難しいのはやはり“気持ち”ですね。この10年間モチベーションを高めてやり続けるのは簡単なことではないし、チャンピオンになって防衛を重ねていくには、それだけのモチベーションが必要だと思うので、そこの保ち方は日々気持ちも変わるので難しいところがあります」

Q 試合までの2か月のトレーニングの中でどんなことを大切にしているのでしょうか。

井上選手

「試合まであとちょうど2か月なので、ここからの1日1日が本当に大切になってきます。1日をどう過ごすかというところと、その1日のトレーニングを本当にやりきれたかを1つ1つ確認しながらやっていくことが大切かなと思います」

Q 12月の試合では私たちにどんな試合を見せてくれますか。

井上選手

「試合の理想を言えば、ことし6月のドネア戦と同じように圧倒的な勝ち方です。あと自分は、勝った瞬間みなさんが見せてくれる景色を楽しみにしているんです。勝利の瞬間というのは、会場にいるファンの方とその瞬間を分かち合う時間だと思っています。そこで自分が、ファンや応援してくれるみなさんの景色をリングの上から見たいなと思っています」

Q 井上選手が景色を見たいのですね。

井上選手

「そうですね。やはり1万5000人のファンの方の景色を見られるのは、きっと自分だけですので。それが楽しみだなと思っています」

今後の目標「統一」

最後に、今後について目標を書いてもらいました。パネルに書かれたことばは「統一」でした。

井上選手

「これはもう近々の目標で、12月13日に行われる4団体統一が自分の中での1つのバンタム級の最終章だと思っています。書いたことばは、それに向けての目標になります。その後はまた1つ階級を上げて戦っていくことが目標です。ボクシング人生やボクシング生活での理想を言うと『現役引退した時に自分がほんとにどう思うか』ということを考えています。小学1年生からやってきたボクシングを『やってきてよかった』と思えるような終わりにしたいなと思っています。そこが理想ですね」

井上尚弥選手の4団体王座統一をかけた試合は、ことし12月13日に東京の有明アリーナで行われます。

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