2019年4月11日木曜日

菊池雄星、大谷翔平、佐々木朗希・・・なんだいわては

https://bit.ly/2P36CNi
Number Web 2019/04/09 11:30

マスクの窓から野球を見れば 佐々木朗希「163km」の一部始終。
球場は静まり、別の武器も披露。
佐々木朗希「163km」の一部始終。球場は静まり、別の武器も披露。<
U-18野球日本代表合宿でものすごいボールを投げ込んだ佐々木朗希。この高校生、ただ者ではない。
「すごく緊張して、勝手に体に力が入ってしまって、思ったようにボールに指がかからなかったんで……」
それで「163」なら、指にかかった日には200キロぐらいあっさり出すんじゃないのか。
 1日のスケジュールがすべて終わって、横浜高・及川雅貴、東邦高・石川昂弥、星稜高・奥川恭伸……注目の3選手と共に囲み取材に並んだ大船渡高・佐々木朗希投手。声はいちばん小さかったが、実は、言ってることの中身は、とんでもなくデカかった。
 U-18代表候補選手合宿の2日目、近畿大学のグラウンドで行われた「紅白戦」。第2試合の先発でマウンドに上がった佐々木朗希投手のピッチングがすごかった。
 先頭の森敬斗(内野手・176cm70kg・右投左打)は、速い球には鋭く反応できる打者なのに、その森が初球の速球に、ボールがミットに収まってから振ったような振り遅れの空振りをしたから驚いた。
 6日前の作新学院との練習試合で156キロまで出して、3イニング投げて6三振を奪ったその腕で、今度は「ジャパン候補」の6人の打者を相手に6連続奪三振なのだから、もう一度驚いた。
163kmに、グラウンドが静まった。
 そして、そんな快投の中で、佐々木朗希投手がマークした「時速163キロ」。横浜高・内海貴斗に投じた3球目だった。
 佐々木投手が投げ始めてしばらく、グラウンドがシーンとなっていた。バックを守っている選手も、相手方のダグアウトも、いつの間にか佐々木投手のピッチングをジーッと見入ってしまっている。
「さあ、声出していこうか!」
 仲井宗基コーチ(八戸学院光星監督)の一声に、ハッとしたように、そこここから選手たちの声が上がる。
 そんな空気の中で生まれた、花巻東の大谷翔平(エンゼルス)も投げられなかった「163」。
 ほんとかい?
 一瞬、本気にしない空気も流れたが、スカウトの方のスピードガンが一塁側でも、三塁側でも、160キロ台を計測したので、「公認」ということになった。
昨夏の県予選から予感はあった。
 出てもぜんぜんおかしくない……そう考えていたのにはワケがある。
 昨年夏の岩手県予選だ。
 初戦に先発した当時2年の佐々木投手は立ち上がりから「154」と、とんでもないスピードを続けざまにマークしてみせた。
 その頃の佐々木投手の投げっぷりには“力感”というものがなかった。流れるような全身の連動の最後にサッと腕を振って、それで154。それが、ひと冬越した今日はちょっと違っていた。
 マウンドに上がる前のブルペンのピッチングを見て、アッと思った。力を入れて投げている。いや、それでは表現が違う。力を入れて投げられるようになったのだ。
 スカスカだったユニフォームのズボンを、内側から圧するような筋肉がついてきている。左ヒザが胸につくほど高く上げても、上体が真っ直ぐに立てているボディーバランス。力を入れて、エイッと腕を振ってもバランスをキープできる下半身の安定感。夏にはなかったものがいくつも加わっている。
 これなら「160」出したって、ぜんぜんおかしくない。この日の紅白戦前、ブルペンのピッチングを見て、そんな予感がもうしていたのだ。
変化球とコントロールもすごい。
 ただし、佐々木朗希のすごさは「163」だけで語られてはいけない。
 今までの彼からは決して見られなかった、新しいすごさ。そこを見逃してはならない。まず、変化球の動きとそのコントロールだ。
 本人は「思うように投げられなかった……」と不満そうだったが、なかなかどうして、スライダーにチェンジアップ、フォークまで投げていたように見えた。「国際試合規格」の慣れないボールを使っていたのに、明らかな投げ損じの変化球はほとんどなかったし、指先から高く抜けた速球も見たかぎり1球もなし。
 そして捕手のサインに4回首を振って、ストレートかと思ったら、フォークで空振りの三振を奪った場面である。ストレートで追い込んだ後、自分でプランを立て、その通りの“筋書き”で抑え込んでみせる。
 それは、次の1球、目の前の1人を打ち取ることでいっぱいいっぱいだった昨秋までには見られなかった頼もしい姿だ。
クイック、牽制、ストーリー性。
 また、走者一塁の場面設定による紅白戦でのこと。
 左ヒザを胸につくほど上げるフォームだから、だいじょうぶかな……と心配したが、セットポジションからのクイックだってまずまずこなし、一塁ランナーの帰塁反応が鈍いと見れば、強烈な牽制球を2つ続けてかましてみせる。そんな“怖さ”も、佐々木朗希投手が見せてくれた新しい一面だ。
「163キロ」という高校球界前人未到のスピードを発揮した佐々木朗希の本当のすばらしさは、決して「163キロ」だけじゃない。
「ピッチング」という総合作業、総合技術についても、ひと冬越してすばらしい変わり身を見せてくれたことに敬意を表したい。
 ピッチングとは「ストーリー」である。
 なんだかわからないけど、一生懸命投げていたらイニングが進んで、気がついてみたら試合が終わっていました……それじゃあ、仮に勝ったとしても「ピッチング」とは言わない。
 こういうふうにカウントをとり、こんなふうに追い込んで、こういう理由で勝負球を選んで打ち取りました……。そんな「起承転結」を後から語れるから「ピッチング」という仕事になるのだ。
「ボール2つはホップしてます」
「その、勝負にいったそのボールが、いちばん威力がある。そこが今日はすばらしかった」
 あるスカウトの方が、そんなふうに感心しておられた。
「ホームベースの上でグンと伸びてくるボールってあるじゃないですか。それが、佐々木のストレートは、グン、グンって二度伸びてくる感じなんですよ!」
 この日バッテリーを組んだ藤田健斗(中京学院大中京・3年・173cm73kg・右投右打)だって、東海地区じゃ1、2の守備力を持ったキャッチャーだ。
「ホップするような、って言葉がありますが、実際にはホップはしなくて、そう見えるだけなんです。だけど佐々木のストレートだけは……あれは絶対ホップしてます。それもボール2つは間違いなくホップしてます!」
 まったく、とんでもないヤツが出てきたものだ。
2日目のキャッチボールは……。
 実は、いじわるな取材者としては紅白戦翌日のキャッチボールが見たかった。
 きのうと同じような、長い右腕をグイとしならせた豪快なアームスイングを見せてもらえるのか……。
 残念ながら、朝からおよそ2時間ほどの練習時間のほとんどを入念なストレッチに費やして、佐々木朗希の「全国初お目見え」は終了した。
 まだ、連投はしていないという。
 すばらしい骨格と体型。誰に教わったのか、自分で身に付けたのか、理にかなったダイナミックなフォームから、高校球児がまだ誰も足を踏み入れたことのないスピードの領域に、いとも簡単に突入してしまった見たことのない大器。
 この先、求められるとすればチームを背負って、場合によっては、進んで連投のマウンドにも向かっていける心身の頑丈さか。
 本物の怪物候補出現に、取って付けたような「締めの言葉」などいらないだろう。
 大船渡高・佐々木朗希投手、U-18代表候補合宿での、これが「一部始終」である。

0 件のコメント:

コメントを投稿