イーファイト 2018年9月22日
八重樫東、生き残りを懸けたタフファイトを振り返る=2018年8月ベストファイターインタビュー
毎月イーファイトが取材した大会の中から決める格闘技月間ベストファイター賞。2018年8月のベストファイターは、8月17日に東京・後楽園ホールにて開催されたボクシング『第64回Phoenix Battle』で、世界ランカー・向井寛史との生き残りを懸けたサバイバルマッチでTKO勝ちした八重樫東に決定!(2018年9月22日UP)
PROFILE
八重樫東
1983年2月25日、岩手県出身
身長162㎝
元WBA世界ミニマム級王者
元WBC世界フライ級王者
元IBF世界ライトフライ級王者
大橋ボクシングジム所属
選考理由
1、「観客を大いに沸かせるタフファイトを演じた」
2、「世界ランカーにTKO勝ち」
3、「日本人選手初の4階級制覇へ前進」
選考委員
格闘技雑誌Fight&Lifeとイーファイトの全スタッフ
受賞された八重樫東選手には、ゴールドジムより以下の賞品(プロカルシウム 300粒 1個、マルチビタミン&ミネラル 1個、アルティメットリカバリー ブラックマカ&テストフェン+α 240粒 1個)と、イーファイトより記念の盾が贈られます。
ベストファイター記念インタビュー
「ギャップに満足してもらう。それが僕の追求している本当のボクシング」
■「負けたら引退」を予感させたベテラン対決
かつては今以上に「20代のための競技」であったボクシングにおいて、すでに35歳――単にそんな理由ではなく、この試合で八重樫が「負けたら引退」を予感させるシチュエーションは十分にあっただろう。
WBAミニマム級、WBCフライ級、IBFライトフライ級のタフな流れで世界王座を3階級制覇してきた八重樫が、近年のキャリアでもミラン・メリンド(30=フィリピン)に喫した初回KO負けは「限界」を感じさせる一幕であったし、一方、今回対戦した向井も32歳。タイ人選手に3連続KO勝ち中ではあったが、世界王座を含めた大一番で何度か敗れ、この対戦がさながら「生き残りをかけたサドンデスマッチ」の様相を放っていたことは、他でもなく両選手が試合前に口をそろえたほどだ。
おそらく、試合で見せられないのは、単に負けることではなく「下り坂」の印象だったかもしれない。しかし両選手はパフォーマンスに確かな充実度を持って、ファンの注目に応えた。
右ファイター型の八重樫が主導権を握るように試合を進める中、6回、心身ともにスタミナを大きく消耗させられていた左ボクサー型の向井が、逆転の糸口をつかんで、力のこもったストレートを連打し、八重樫を窮地に追い込む。あくまで「勝負論」においては、八重樫が唯一見せてはいけない場面だったが、「興行論」から考えれば、ここを乗り越えた直後に、向井を連打でしとめる二転三転があったからこそ、この賞を含めた様々な好評価につながった。
気合いたっぷりで切り抜けたこのタフファイトを、八重樫は冷静に振り返る。
「6ラウンド目というか、相手が挽回し始めた5ラウンド目からは“自爆”でした。序盤はポイントを取られてもスタミナを削る接近戦に専念して、中盤以降に倒せたらいいと思っていたんですけど、序盤から時々あった中間距離でのやり取りでも、そんなに悪くない感覚があったんです。
攻撃が少し単調にもなっていたので、踏み込まない場所で自分が上回れるか試してみようって。そうしたら、向井君に有利なポジションをつかまれて、6ラウンド目にポン、ポン!って連打された。リングの外から“効いた、効いた”ってたくさん聞こえてくるから、とりあえず、相手の首根っこに左腕を回してクリンチに入って…。離れ際に右を振ったら、これがしっかり当たったので、さあ倒しに行こうって感じでした」
■八重樫が今も抱く向上心
かつての八重樫は左ボクサー型(サウスポー)が大の苦手だった。拓殖大学時代、同世代で唯一、2004年アテネ五輪に出場できた出世頭の五十嵐俊幸(34=帝拳→引退)には、1学年上のアドバンテージも虚しく4戦全敗。3分3ラウンドで有効打を奪い合うポイントゲームにおいて、五十嵐のほうが優秀であったこともあるが、八重樫は五十嵐に限らず、距離を取る左ボクサー型に翻弄される負け試合が少なくなかった。しかしプロ転向後、やがて奪取したWBC世界フライ級王座は五十嵐の保持していたものだ(2013年4月・両国国技館)。
「あの試合で勝ってから、サウスポーへの苦手意識はなくなりました。逆を言うとあの試合が決まった頃も、とにかくサウスポーが苦手で、スパーリングパートナーで呼んだ大学生に軽くコントロールされていた。苦手というか単純にサウスポーと戦う基礎がありませんでしたね。でも、今度こそライバルに勝つにはどうしたらいいかって、ムキになって対策したからこそ、自分は苦手意識を克服できています」
年齢に関しては「気にしていない数字」と語った八重樫が「気にしなくてはいけない数字」として口にしたのが世界ランキングだ。八重樫は現在、ボクシングのメジャー4団体のうち、WBA、IBF、WBOではまだライトフライ級の世界ランキングに名があり、長くスーパーフライ級で戦ってきたWBO世界同級11位の向井に勝つことは、同級でのランキング調整でも重要だった。9月10日に更新されたWBCの世界ランキングでは、スーパーフライ級の14位に入っている。
「僕の適正体重はフライ級です(現在はスーパーフライ級)。ただ、選手を続けるために、周りに理解してもらう目標には“日本男子史上初の4階級制覇”がシンプルですから。メジャー4団体でWBOの世界王座だけ穫れていないことには、特にこだわっていないです。WBO世界スーパーフライ級王座は、少し前までジムの後輩の井上尚弥が持っていたものですけど、1位のドニー・ニエテス(36=フィリピン)や復帰した井岡一翔(29)が争い始めたら、そこに食い込むのを待つほど自分に時間はない。そういう点では、年齢という数字も、参考にはしていますね」
“打ちつ打たれつ”の激闘が、世界中のボクシング・フリークから人気を集めてきた八重樫。だが今も抱く向上心は別の理想を目指している。
「僕は本来“打って外して”の出入りが持ち味ですので、みなさんの印象よりは健康的なキャリアを続けています(笑)。試合後の医療チェックも怠らずにやっている。激しい試合を期待して来たお客さんに、別のスタイルを見せて、そのギャップに満足してもらう。それが僕の追求している本当のボクシングなんです」

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