2017年8月21日月曜日

ビッグマッチ、同年代・亀海選手への期待

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日経新聞 2017/8/21 6:30
日本ボクシング史上最大の戦い 亀海、コットに挑む

こんなビッグマッチが実現する日が来ると、誰が想像しただろう。日本のボクシングファンが驚いた一戦が26日(日本時間27日)に米ロサンゼルス近郊カーソンで行われる。世界ボクシング機構(WBO)スーパーウエルター級王座決定戦で、帝拳ジムの亀海善寛(かめがい・よしひろ、34)が世界タイトルに初挑戦する。相手がすごい。世界4階級制覇のスーパースター、ミゲール・コット(プエルトリコ)だ。

 「ボクシングには夢がありますよ。この試合は近年なかったビッグマッチ。僕がコットとやりたかったくらいです」。こう語るのは10月に世界再挑戦が決まったミドル級の村田諒太(帝拳)である。「一ボクサーであると同時に一人のボクシングマニアでもある」と広言する村田の興奮気味の言葉が、ミドル級より1階級下のスーパーウエルター級(上限69.85キロ)の世界王座を懸けたこの一戦のインパクトを物語っている。それには亀海の対戦相手について説明するのが手っ取り早い。

■コット、世界4階級制覇の英雄

 コットは米国、メキシコと並ぶボクシング大国プエルトリコで初めて4階級制覇(スーパーライト級、ウエルター級、スーパーウエルター級、ミドル級)を達成した英雄だ。左フックの強打と堅い防御を兼ね備え、その人気はプエルトリコ系移民が多い米東海岸で群を抜く。ニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデンをホームとし、あのヤンキースタジアムで数万人を集めて戦ったこともある。ドル箱スターの証しといえるペイ・パー・ビューファイト(PPV、受信料と別に番組を見るために視聴料を取る試合)も何度も行っており、2年前の「世紀の対決」で世界中の話題をさらったフロイド・メイウェザー(米国)、マニー・パッキャオ(フィリピン)の両雄と拳を交えたことのある数少ない選手の一人だ。メキシコの若き英雄サウル・アルバレスと対戦した前回の試合(2015年11月)のファイトマネーは約18億円だった。

 さかのぼれば「黄金のバンタム」エデル・ジョフレ(ブラジル)、「石の拳」ロベルト・デュラン(パナマ)、「ニカラグアの貴公子」アレクシス・アルゲリョら歴史に残る名選手が日本のボクサーと対戦したこともある。ただ、ジョフレは軽量級の選手だったし、デュランとアルゲリョはキャリアのピークを迎える前の対戦だった。ボクシングビジネスの本場米国を主戦場とし、巨額の報酬を稼ぐ人気選手という意味で、コットほどのネームバリューを持った選手と日本人が戦うのは初めてといえるだろう。

 これだけのスター選手の相手となれば、誰でも務まるわけではない。この試合を放送する米大手ケーブルテレビ局「HBO」は長年、ボクシング中継のガリバーとしてマッチメークにも強い発言力を持つ。つまり、今回の一戦は亀海がコットの対戦者にふさわしいと評価されたということなのだ。

■亀海、米国で得た評価と人気

「コットと対戦できると聞いてから正式決定まで2カ月以上待ちました。最初は興奮、最後は安堵した」。こう語る亀海は、先日13連続防衛の日本記録にあと1つ届かずベルトを失った山中慎介と同い年の34歳。熱心なボクシングファンでなければ名前を聞いたことがないかもしれないが、今回コットの対戦者に選ばれたように米国で評価と人気を得ているボクサーだ。通算戦績は27勝(24KO)3敗2分け。日本タイトル、東洋太平洋タイトルも獲得しているが、何といっても米国での8試合(3勝3敗2分け)でのし上がってきたキャリアが光る。

 特に直近の2試合はファンの支持を集めた。元世界タイトル挑戦者のヘスス・ソトカラス(メキシコ)との2連戦(初戦引き分け、2戦目KO勝ち)は年間最高試合の候補に挙がるほどの熱戦で、今回のビッグチャンスにつながった。どんどん前に出て手を出し続けるボクシングが喝采を浴びた。亀海いわく、「フルアクションで派手な試合をする、止まらない選手だと認識されている。自分の試合を楽しみにしてくれているのがわかる」。

 そんな熱い男も、実は日本を主戦場にしているときは別人のようなボクシングだった。札幌商業高校でインターハイ、帝京大で全日本選手権など、アマチュアでたびたび日本一に輝いてきただけあって、スキルにたけた選手で鳴らした。なかでもディフェンスは一級品。左肩で相手のパンチを逃がす「ショルダーブロック」などの高等技術を駆使し、中量級の実力者として君臨した。

 しかし、それも中量級の選手層の薄いアジアだから通用した、と思い知らされる。11年から米国に進出するが、24戦目でプロ初黒星を喫する。その後も白星と黒星が交互に訪れる一進一退のキャリアが続くなか、戦い方を大きく変える覚悟を決めた。「海外で日本人が勝っていくには、インパクトのある試合をしなければいけないし、基本的にアウェーなのだから攻めなければ勝てない。もともと持っていたものを捨てて全部変えた」。クレバーなディフェンスマスターから魂のファイターへと、180度カジを切ったのだ。フィジカルトレーニングも徐々に身を結び、スタミナの伴った攻撃力が開花。本場のファンやプロモーターのハートをつかんだ。

■亀海にアメリカンドリームの期待

 今回の試合も馬力で突破口を開こうとしている。コットについて「20歳くらいのときから見ていた憧れの選手」と語るが、もちろん勝負となれば別。頭の中には明確な戦いのプランがある。「コットは昔ほど怖さがなくなった分、穴の少ないボクシングをする。自分と戦うときは9割方、フットワークを使ってさばきにくると思う。でも、俺のプレッシャーはジャブとフットワークだけではさばけない。必ずつかまえられる自信がある。ポイント(判定)でもストップでも明確に勝てるようにしたい」と力強い。プロ46戦目(40勝33KO5敗)のコットは今回が約2年ぶりの再起戦。ピークは過ぎ、キャリアの最終盤にさしかかっているのは事実だ。「Aサイド」と呼ばれる興行の主役はあくまでコットだが、「Bサイド」の亀海が踏み台にして上にいくチャンスでもある。

 「自分の最終目標はPPVのメインイベントを飾ること」と夢は大きい。亀海が所属する帝拳ジム会長で世界的プロモーターの本田明彦氏も「勝てば、次はもっと大きい試合ができる」と話す。帝拳勢は7月に三浦隆司が世界ボクシング評議会(WBC)スーパーフェザー王座奪回に失敗して引退、今月15日は山中がWBCバンタム級のベルトを失ったばかり。2人と同世代の亀海には連敗ストッパー、そしてアメリカンドリームの期待がかかっている。

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