2017年8月2日水曜日

ボクサー内山高志の流儀

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日刊スポーツ 2017年8月1日13時21分
恐れず、おごらず、侮らず…ボクサー内山高志の流儀

 ボクシングの前WBA世界スーパーフェザー級王者内山高志(37=ワタナベ)が、7月29日に引退を表明した。25歳でプロ入りし、30歳で世界王座を奪取。強打を武器に歴代3位の11度の連続防衛を果たした名王者は「悔いはない」と晴れ晴れとした表情でリングに別れを告げた。

 取材を通して見てきた内山は、いつも強かった。6年以上守った王座から陥落した16年4月のコラレス戦。まさかの2回KO負けに、会場はざわめきが止まない異様な雰囲気に包まれた。ファン、関係者、誰もが現実を受け止めるのに時間がかかる中、内山だけは違った。試合後の会見をキャンセルすることも、時間を遅らせることもせず報道陣の前に姿を見せると、大きく1回深呼吸をし、勝利した時と同じように丁寧に質問に答えた。「これが実力」「完全なKO負けです」。一切の言い訳をせず会見を終えると、渡辺会長に頭を下げ、敗北をわびた。

 翌日。同じ興行で王座を守った同門の後輩田口良一、河野公平の一夜明け会見が行われた。だが、報道陣の注目が自身の去就に注がれることを内山は分かっていた。事前に中継局の代表取材を受け、最低限のコメントを発表してもらうように頼んだ。自分ではなく、勝った河野と田口を取り上げてほしい-。内山の配慮だった。

 大切にしてきた言葉がある。「恐れず、おごらず、侮らず」。ボクシングを始めた埼玉・花咲徳栄高ボクシング部の部訓だ。勝利を重ね、「日本ボクシング界のエース」ともてはやされるようになっても、その言葉通りの振る舞いを崩すことはなかった。取材をお願いすれば、「ありがとうございました。またよろしくお願いします」と頭を下げられ、何度もこちらが恐縮した。チケットを買ってくれた人には自筆でお礼状を書き、お世話になった人へのお中元、お歳暮も欠かさなかった。

 そんな実直な人柄だからこそ、自然と周囲に人が集まった。世界王者の井上尚弥は、拳を負傷した時、内山に相談し、手術を受けることを決めた。山中慎介、村田諒太、八重樫東…、内山の背中を見てきた選手たちが現在のボクシング界を支えていると言っても過言ではない。

 王座在位期間6年3カ月、世界戦通算10KOはともに日本歴代1位。強さの裏には、徹底した自制もあった。減量による体へのダメージを避けるため、試合がなくともリミットからプラス6キロ以内に体重をキープ。試合中の負傷を想定して、食事を左手で取り、けがを避けるため、ボクシング以外のスポーツは一切やらなかった。

 プロ入りを反対し、デビュー3戦目を前に亡くなった父行男さんに言った「世界王者になる」という約束を果たしてからは、戦う理由はよりシンプルなものになった。「ボクシングが好き。好きなことだから、誰にも負けたくない」。求め続けた米国進出、名のある選手とのビッグマッチは最後まで実現しなかった。それでも、相手を次々となぎ倒す豪快なKO劇は記憶として、しっかりとファンの心に刻まれた。引退会見では「後々はジムをやりたい」と話した。いつか内山のように、強く、格好いいボクサーを育ててほしい。

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