2017年5月15日月曜日

王者たち

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Sportsnavi 2017年5月15日(月) 12:00
日本ボクシング界をけん引する王者たち
V12山中から戴冠1カ月久保までを全紹介 原功

1952年5月19日に白井義男氏が日本に初めて世界王座をもたらしてから65年。日本ボクシングコミッション(JBC)が認定する歴代世界王者は80人を数え、現在も9人が主要4団体のいずれかのベルトを保持している。ベネズエラ出身のホルヘ・リナレス(31=帝拳)を含めれば10人の世界王者を擁しているわけで、米国、イギリス、メキシコなどと並んで「ボクシング大国」の一角を占めるまでになっている。

 さらに20日、21日には村田諒太(31=帝拳)、拳四朗(25=BMB)、比嘉大吾(21=白井・具志堅)の3人が世界に挑戦し、井上尚弥(24=大橋)、八重樫東(34=大橋)、田中恒成(21=畑中)の3王者が防衛戦を控えている状態だ。

 ただし、ひと昔前のように「世界王者=誰もが知る存在」かというと、そうではなくなってきている。そこで、あらためて9人の日本人世界王者を体重別に軽い方から紹介しよう。
期待されるライトフライ級王座統一戦

 17階級のなかでも最軽量のミニマム級でWBO王座に君臨するのが福原辰弥(27=本田フィットネス)だ。今年2月、生まれ育った熊本でWBOミニマム級暫定王座決定戦に臨み、モイセス・カジェロス(メキシコ)に2対1の12回判定勝ちを収めてベルトを腰に巻いた。その後、正王者の高山勝成が引退したため、福原に晴れて正王者の称号が与えられた。9年前にデビューし、熊本をベースに東京、愛知、沖縄など日本各地を転戦。さらにタイ遠征もこなすなどして地力をつけ、15年には日本ミニマム級王座を獲得。初防衛戦では世界上位ランカーの榮拓海(折尾)を退け、自らの手で世界への道を切り開いた。
 カジェロス戦では左目を大きく腫らしながらも持ち味の粘りを発揮した。14年以降の10試合は日本タイトル戦、世界戦を含めて10戦7勝(4KO)3分と無敗を誇る。サウスポーのボクサーファイター型で、左ストレートから右フック、さらにボディへの返しを得意とする。29戦19勝(7KO)4敗6分。

 ライトフライ級は主要4団体のうち3つのベルトが日本に集まっている。20日にWBC王座に挑む拳四朗が勝ち、さらに田中と八重樫が防衛を果たせば日本人選手が4団体の王座を独占することになる。日本人同士による統一戦の機運が高まることは間違いなさそうだ。

 そのライトフライ級でWBA王座を保持しているのが田口良一(30=ワタナベ)だ。田口は童顔に似合わず強気の攻撃的ボクシングをすることで知られる。13年4月に日本王座を獲得したが、初防衛戦でのちの世界王者、井上尚弥に判定負けを喫して4カ月の在位に終わった。しかし、昇竜の勢いの井上と10回まで渡り合ったことで再評価された。14年12月にはアルベルト・ロッセル(ペルー)から2度のダウンを奪って12回判定勝ち、世界一の座についた。3連続KO防衛後、元王者の宮崎亮(井岡)との日本人対決を制してV4に成功。昨年の大晦日には引き分けで5度目の防衛を果たしている。この階級では168センチと長身だが、体格に頼ることなく積極的に接近戦を仕掛ける好戦派で、耐久力にも優れている。右のボクサーファイター型で、ワンツーやボディ打ちなどを得意としている。29戦25勝(11KO)2敗2分。

 IBF王者の八重樫東はミニマム級から飛び級でフライ級を制覇、そして1階級落としてライトフライ級で戴冠を果たし、3階級で世界一になった。“激闘王”の異名があるように、常にスリリングな戦いをするためファンも多い。プロ7戦目で世界初挑戦したが、このときはアゴを骨折したすえ12回判定負けに終わった。再挑戦まで4年を要したが、28歳でWBAミニマム級王座を獲得。初防衛戦でWBC王者の井岡一翔(井岡)に惜敗、王座統一に失敗したが、株を落とすことはなかった。13年にWBCのフライ級王座を獲得したあとV4戦では世界的な強豪、ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)の挑戦も受けた(9回TKO負け)。現在の王座は15年12月に獲得したもので、21日にV3戦を控えている。打撃戦だけでなく、足とスピードを生かした出入りのボクシングもできる。30戦25勝(13KO)5敗。

 WBO王者の田中恒成はスピード出世を果たした俊英だ。日本最速の5戦目で世界王座を獲得し、井上尚弥と並ぶプロ8戦目で2階級制覇を達成。20日に16戦全KO勝ちの挑戦者、アンヘル・アコスタ(プエルトリコ)を相手に初防衛戦を行うことになっている。高校王者になるなどアマチュアを経て13年11月、元世界王者の畑中清詞氏が会長を務める畑中ジムからプロデビュー。4戦目で東洋太平洋ミニマム級王座を獲得し、5戦目でWBOミニマム級王者になった。デビューからわずか1年半だった。初防衛戦では2度のダウンを喫したうえポイントでも相手にリードを許す大苦戦を強いられたが、6回にボディブローで逆転KO勝ちを収めた。この王座は返上してライトフライ級に転向し、昨年の大晦日に現在の王座を獲得した。スピードとテクニック、強打を併せ持った右のボクサーファイター型。8戦全勝(5KO)。

実績、実力で秀でる井岡、井上、山中
 9人のうち「日本ボクシング界のエースは?」と問われたら、井岡一翔、井上尚弥、山中慎介の3人の名前を挙げる人が多いのではないだろうか。この3王者はTBS(井岡)、フジテレビ(井上)、日本テレビ(山中)が放送するボクシング番組の象徴的存在でもある。いずれ劣らぬ実力者だけに単なる防衛ではなく海外進出、他団体王者との統一戦などが期待されている。

 八重樫よりもひと足早く3階級制覇を果たしている井岡一翔(28=井岡)は、現在はWBAフライ級王座に君臨している。国内のトップアマから09年にプロへ転じ、当時の日本最速記録となる7戦目でWBCミニマム級王座を獲得(11年)。12年にはWBAライトフライ級王座についた。フライ級転向後、一度はIBF王座に挑んで惜敗したが、15年4月にファン・カルロス・レベコ(アルゼンチン)に12回判定勝ち、叔父(井岡弘樹氏)が達成できなかった3階級制覇を成し遂げた。この王座はレベコを11回TKOで返り討ちにするなど4度防衛中だ。世界戦での14勝は具志堅用高氏と並ぶ日本タイ記録でもある。左ジャブで切り込み、右ストレートから左ボディブローと繋げるコンビネーションが巧みで、駆け引きやスタミナ面でも長けている。4階級制覇にも意欲をみせている。23戦22勝(13KO)1敗。

“モンスター”の異名を持ち、世界的な注目度も高いのがWBOスーパーフライ級王者の井上尚弥だ。五輪出場は逃したが、アマチュア時代には数々の国際大会も経験し、12年に異例の8回戦でプロデビュー(4回KO勝ち)。4戦目で田口良一に勝って日本ライトフライ級王座につき、5戦目では東洋太平洋王座も手に入れた。デビューから1年半後の14年4月、アドリアン・エルナンデス(メキシコ)を6回TKOで屠ってWBCライトフライ級王座を獲得した。6戦目での戴冠は田中恒成に破られるまでの国内最速記録だった。8カ月後、一気に2階級上げてWBOスーパー・フライ級王座に挑戦。30度の世界戦を経験しているオマール・ナルバエス(アルゼンチン)を4度倒して2回KO勝ち、衝撃的な王座奪取を果たした。スピード、パワー、テクニックを兼備した万能型で、さらなる飛躍が期待されている。まずは21日のV5戦に要注目だ。12戦全勝(10KO)。

 井岡、井上らとともに日本ボクシング界の大黒柱といえるのが“ゴッド・レフト(神の左)”、WBCバンタム級王者の山中慎介(34=帝拳)だ。11年の戴冠から5年半で12度の防衛を果たしているサウスポーは、米国の老舗専門誌「リング」のパウンドフォーパウンド(体重同一時と仮定した強さの指標)で井上のひとつ上、9位にランクされているように、世界的な評価も高い。12人の挑戦者の質も高く、のべ7人が元世界王者である。特にV9戦で苦戦した元WBA王者のアンセルモ・モレノ(パナマ)とはV11戦で再戦し、4度のダウンを奪って決着をつけている。次の防衛戦で勝つか引き分けるかすると具志堅用高氏の持つ世界王座防衛13度の日本記録に並ぶ。サウスポーのボクサーファイター型で、戴冠試合を含めた13度の世界戦では計27度のダウンを奪っている。そのほとんどが「神の左」だ。29戦27勝(19KO)2分。

Sバンタム級では久保と小國が世界王者に
 4月にWBAスーパーバンタム級王者になった久保隼(27=真正)は、9人のなかでは最もホヤホヤの世界王者だ。4月9日、キャリアで9年、試合数で3倍勝るネオマール・セルメニョ(ベネズエラ)に大阪で挑戦し、7回に喫したダウンを挽回して10回終了TKO勝ちを収めて戴冠を果たした。アマチュアを経て14年にプロに転向し、ジムの先輩でもある長谷川穂積(3階級制覇王者)の背中を見て成長を遂げてきた。15年12月に東洋太平洋王座を獲得し、2度防衛後に世界一になった。この階級では176センチという長身で、左構えから繰り出す右ジャブで相手をコントロールし、威力のある左ストレートに繋げるスタイルを持つ。12戦全勝(9KO)。課題も少なくない成長途上の王者だが、それだけに多くの伸びしろを残してもいる。
 久保と同じスーパーバンタム級のIBF王者、小國以載(28=角海老宝石)は昨年大晦日、23戦22勝(22KO)1無効試合の強打者、ジョナタン・グスマン(ドミニカ共和国)を破って王座についた。巧みな左ボディブローで2度のダウンを奪ったすえの判定勝ちで、1対9のオッズをもひっくり返す番狂わせだった。アマチュアを経て09年にプロデビューし、7戦目で東洋太平洋王座を獲得。4度目の防衛戦で和氣慎吾(山上)に敗れたのを機に角海老宝石ジムに移籍した。14年12月に日本王座を獲得し、2度防衛後に返上して世界挑戦に備えた。テンポよく放つ左ジャブで距離とタイミングを計りながらボクシングを組み立てる右のボクサーファイター型で、岩佐亮佑(セレス)との指名防衛戦が義務づけられている。21戦19勝(7KO)1敗1分。
 20日には東京・有明コロシアムでミドル級の村田(12戦全勝9KO)、フライ級の比嘉大吾(21=白井・具志堅 12戦全KO勝ち)、ライト・フライ級の拳四朗(9戦全勝5KO)が世界挑戦のリングに上がり、名古屋では田中が初防衛戦に臨む。翌21日には有明コロシアムで井上、八重樫のダブル防衛戦が行われる。この2日間で日本人世界王者は増えるのか、それとも――。

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