2017年3月15日水曜日

人生が今日で変わった。高みを知れば知るほど

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日刊スポーツ 2017年3月15日18時16分
井上尚弥、スパー相手の人生変える魅力的な「怪物」
「怪物」のすごさ、それゆえの魅力の一端をかいま見た。
 「世界観が変わった。こんなんじゃ、ダメだと。このままやっていたら、終わってしまう。ボクシングの考え方、練習の仕方…。人生が今日で変わったと思います」
 ボクシングのWBO世界スーパーフライ級王者井上尚弥(23=大橋)が、V5戦を予定する春先へ、横浜市内のスパーリングを開始した13日。4回を消化したリングを下りて、紅潮した顔に大粒の汗をしたたらせ、己の競技人生を深く思い入るボクサーがいた。出稽古に呼ばれ、井上と拳を交えた、日本バンタム級14位勅使河原弘晶(26=輪島功一スポーツ)。16戦12勝(6KO)2敗2分、金髪がトレードマークの「金色夜叉」は、3分×4回=12分の濃密な時間に、それまでのボクサー人生の否定を感じ、そこで落ち込むのではなく、「こんな世界があるのか…」と、ただ最高の衝撃に身を震わせていた。
「井上選手と初めてスパーをするので、最悪の想定をしてきたんですが、その最悪すら甘かったです。化け物そのもの。最初から恐怖心がすごかった」
 左ジャブ、ボディーと上下の打ち分けを軸に、的確かつピンポイントで右が襲ってくる。「ヘッドギアがなければ失神していた」。暴走族のヘッドだった男は、類いまれな負けじ根性で反撃を試みるが、至近距離で拳を振り回しても、一向に手応えは残らない。ある時はノーガードで、ある時はあえてガードにパンチを打たされ、打開の糸口は皆無。井上に圧倒された。
 包み隠さない敗北感はその性格の実直さを感じさせたが、絶望ではなく希望と感じ取っていたことが、関心を呼んだ。同じボクシングという競技に、こんな高みがあったとは…。それは諦めではなく、今後の覚悟を生む。冒頭の勅使河原の発言は、だからこそ逆に井上の存在感を際立たせた。当の本人は昨年末のV4戦から2カ月半ぶりの実戦に「まずまず。でも、まだまだかな」と本音。むしろ納得できない姿に、さらに「怪物」ぶりが強調される。
 強さは絶対的なものだ。ただ、その力は相手に届かないと思わせても、諦念を感じさせるだけで終わらない。同じ競技に励むものとして、その高みを知れば知るほど、同時に野心も沸いてきてしまう。そんなボクサーの性が面白いし、そんな環境を生み出せる井上は、だからこそ魅力的に映る。
 国内の評価だけにとどまらず、世界的なインパクトでも期待が高まる17年。今年初のスパーリングを見ただけで、いやが上にも楽しみになってきた。

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