2017年3月24日金曜日

複数階級制覇

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Sportsnavi+ 2017年03月21日 01:42
フシ穴の眼〜スポーツ編〜
ロマゴン敗北で考える〜複数階級制覇〜1
ローマン・ゴンザレスがシーサケット・ソールンビサイに接戦の末の判定とはいえ敗北。これをPFP1位が破れた衝撃的な試合と捉えている人は少ないのではないでしょうか。4階級制覇を達成した前戦もカルロス・クアドラス相手にやはり手こずりました。今回の試合は「ロマゴンがジュニアバンタムに適応できるのか」の二次試験の意味合いもありましたが、その合否の結果は明らかでした。
フライ級までのスタイルのままでは、シーサケットとの再戦があるとしても苦戦は免れないでしょう。105 ポンド47.62kgのミニマム級から115ポンド52.16kgのジュニアバンタムまで10ポンド4.54kgの大航海の末に座礁してしまったことは、ある意味想定内のことでした。
階級の壁は自身と対戦相手の問題です。増量しながらスピードと反射能力を維持できるか、パワーはついても相手はより頑健な肉体を持っているから、スタイルチェンジは必須です。ミニマム級ですでに完成しきったスタイルを確立していたがゆえに、スタイルチェンジは非常に難しい課題だったでしょう。
階級の壁に阻まれるケースの多くが、下の階級で無敵だったスタイルへの固執です。近年でもファンマ・ロペスやビック・ダルチニアン、ノニト・ドネア、エイドリアン・ブローナーら強打で最初の階級を制覇した才能が、周囲の予想よりも早い段階で階級の壁に阻まれてしまいました。
複数階級制覇の成功の秘訣は、スタイルチェンジ出来るかどうかの一点に尽きます。ヘビー級を奪取したロイ・ジョーンズJr、スタイルチェンジが退屈な試合をもたらしてしまうデメリットを悪役キャラで見事に補完したフロイド・メイウエザーJr、見事なスタイルチェンジをやってのけたこのレベルにならないと周囲の予想を超える複数階級制覇は難しいということでしょう。
ボクシングの歴史上、複数階級制覇という観点で最も大きな成功を成し遂げたのは、少なくとも数字上は世界唯一の8階級制覇(アルファベット団体へ偏執した日本では「6階級制覇」ですが世界的には8階級制覇と認知されています)のマニー・パッキャオでしょう。
しかも、パッキャオの異質なところは階級を上げるに従って避けられない相対的なパンチ力の低下と、対戦相手の打たれ強さの中でも、相手を下がらせる攻撃的なスタイルのまま、足掛け10階級、8階級で王座に就いたという点です。
112ポンド50.8kgのフライ級から130ポンド58.97kgのジュニアライト級までの18ポンド8.17kgもの長旅を爆発的な突貫型のファイタースタイルで突き進み、ライト級以降は目に見えるスタイルチェンジを行ったものの、対戦相手の周囲を旋回して角度をつけた波状攻撃を仕掛ける、やはり攻撃型のままです。
もちろん、パッキャオもメイウエザーやロイと同じリーグに属する稀代の天才ですが、その階級制覇のやり方は異彩を放っています。
パッキャオの複数階級制覇成功は単純な才能によるものなのか?それとも他の選手にはない特殊な背景があるのか?
パッキャオの業績は、過去の複数階級制覇者の伝説と比較してもやはり飛び抜けているのか?
パッキャオの偉業はある意味、アジアのボクサーだから出来たとも言えます。
そして、過去の伝説にはパッキャオに比肩しうるグレートも存在します。
もう少し深く掘り下げたいと思います。

https://goo.gl/8o0hKk
Sportsnavi+ 2017年03月21日 21:18
ロマゴン敗北で考える〜複数階級制覇〜2
ロマゴンとシーサケット、どちらがクオリティの高いボクサーかは言うまでもないことでしょう。ロマゴンはシーサケットではなく階級の壁に敗れたと言えます。また、同じ興行でリングに上がったミドル級一筋のGGGもIBFの当日計量をパスして80キロ以上に膨らんだジェイコブスに12ラウンド手を焼きました。複数階級制覇に挑んだわけではありませんが、GGGもまたある意味で〝階級〟の壁にぶち当たったと言えるかもしれません。
複数階級を制覇することを端的に言ってしまうと「自分は弱くなっているのにより強い相手と戦う」という無理難題に答えを出す作業です。フライ級までのロマゴン、ジュニアバンタム級までのダルチニアン、バンタム級までのドネアは傑出した存在でしたが、すぐ次の階級で急ブレーキを踏むことになりました。絶対的な力量を持っていたからこそ、上の階級を征服することができたのですが(王者乱立の時代そうでない選手も散見されますが)、そんな彼らですら3階級、4階級の途上でその野望は頓挫してしまいました。
ここでフライ級からジュニアミドル級までの10階級にかけて8階級制覇を成し遂げたパッキャオの登場です。108ポンド(50.80kg)から154ポンド(69.85kg)までの、なんと46ポンド(19.05kg)にも及ぶ大航海を順風満帆に渡り切ったのです。17階級中の8階級ですから半分近い階級をその版図に収めたことになります。
王座を奪った相手を見てもフライ(チャチャイ・ダッチボーイジム)、ジュニアフェザー(リーロ・レジャバ)、フェザー(アントニオ・マルコ・バレラ)、ジュニアライト(ファン・マヌエル・マルケス)、ライト(デビッド・ディアス)、ジュニアウエルター(リッキー・ハットン)、ウエルター(ミゲール・コット)、ジュニアミドル(アントニオ・マルガリート)とディアスとコット、マルガリート以外は、文句無しの階級最強を倒してきました。

【世界唯一の8階級制覇を成し遂げたマニー・パッキャオ】
ロマゴンやドネアとは物が違うーそれだけでパッキャオの足掛け10階級、8階級制覇を語るのは早計です。
「フライ級王者がジュニアミドル王者になるなんて信じられない」。
パッキャオを語るときよく聞かれることですが、この表現は正確ではありません。
「元来ライト級の選手がよくもまあフライ級で王者を獲ったものだ」というのが正解です。
食べるものにも事欠く極貧の家庭に生まれ、ほとんど栄養失調の状態で育ったパッキャオのプロデビューはミニマム級でした。しかし計量前に大量の水を飲んでも下限の100ポンド(45.3kg)に届かず、下着にベアリングを忍ばせてようやくパスするほどでした。そんな状態で連戦連勝するのですから持って生まれた肉体は考えられないほどに強靭だったのでしょう。
計量で体重オーバーはよく聞きますが、栄養失調でミニマムですら下限を割ってしまう、それを大量の水を飲むことと、隠したベアリングで体重を稼いで、殴り合いのリングに上がる…まともな神経じゃないですね。
そして、マニラのヒーローになってもアジアに共通する減量信仰から、ジュニアフライ〜フライ級で踏ん張り「ようやく1日3回食べることができる経済力を得たときには減量の食事制限でまともに食べることができなかった」というのです。
過酷な生い立ちを送った本来はフェザー級かライト級の骨格を持ったフィリピンの青年は、減量地獄という檻の中に閉じ込められてしまいます。
この檻をぶち破ったのはパッキャオの炎のような野望と、やはり野心に満ちた若きトレーナー、フレディ・ローチでした。檻から解き放たれたパックマンは、もう誰にも止めることなど出来ません。次から次へと上の階級を焼き尽くし、カジノのオッズをひっくり返し、ビッグネームを食いまくっていきます。
もし、パッキャオが極貧の生まれでなかったら、フェザー級でデビューしてライト級で初のタイトルを獲得したとしたら8階級制覇は達成されることなく、4階級制覇で終わっていたことになります。ボクサーの過度な減量に警鐘を鳴らし続けるVADAの創始者、マーガレット・グッドマン女史も「マニー・パッキャオについて本当に驚愕すべきことは、実に危険なことだがフライ級で戦っていたということだ」と喝破しています。
もちろん、極貧に生まれなかったら1階級も獲れなかったかもしれませんし、そもそもボクシングの道なんて選んでいなかったでしょう。
そう、パッキャオにはボクシング以外に選ぶ道なんてありませんでした。栄養失調に立ちくらみながら、空っぽの胃袋に計量をパスするための水を流し込み、下着の中にベアリングを隠して体重計に乗る、そうまでしてでもリングに上がるしかパッキャオが生きる道はなかったんです。
想像を絶する極貧に喘いできたパッキャオが見ることが出来る希望はたったの一つしかありませんでした。ボクシングのリング以外の場所には、希望はほんの小さな破片すら見つけることが出来なかったのです。

https://goo.gl/vWkWn7
Sportsnavi+ 2017年03月21日 23:45
ロマゴン敗北で考える〜複数階級制覇〜3
マニー・パッキャオが8階級制覇したスパンは108ポンド(50.80kg)から154ポンド(69.85kg)までの46ポンド(19.05kg)。現在の17階級の47%を占めます。
これに匹敵する、あるいは凌駕するボクサーは、長いボクシングの歴史を紐解いても存在しないのか?少なくともパッキャオが誰も寄せ付けない複数階級制覇王者とは言い切れません。

【しかしマルガリートとの体格差はやばかったですね】
最初のライバルは偉大すぎる先駆者、ヘンリー・アームストロング。1930年代を席巻した伝説です。8階級時代にフェザー、ライト、ウエルターの3階級を制覇、ミドル級にも挑戦、優位に試合を進めながらも4階級制覇は失敗。現在、増設された水増し階級のジュニアフェザー、ジュニアライト、ジュニアウエルター、ジュニアミドルを加えると7階級制覇になりますが、そんなイフよりもアームストログの3階級制覇は1団体8階級時代に成し遂げられたもので、暫定王者や決定戦王者など不純物無しの正真正銘の3階級制覇です。
アームストロングの逸話としてはわずか10ヶ月でフェザー、ウエルター、ライトの順に3階級制覇、そのタイトルを同時に保持していたことです。8階級時代に3階級同時保持ですからチャンピオンマップの8つの欄の内3つまでもにアームストロングの名前が刻まれたいたわけです。
そして、フェザーからいきなりウエルター級に挑んだ時はさすがに体重が下限に届かず大量の水を飲んで体重計に乗ったと言いますから、まさにパッキャオの大先輩ですね。そして、アームストロングがウエルター級王座を19度も防衛した点は、階級渡り鳥のパッキャオのレガシーで欠落しているところです。「内容」ではどう考えてもアームストロングに分がありますね。
続いて、ジェームズ・トニーさん。MMAに挑戦したり晩節を汚しまくった自由人です。「才能だけならトニーに勝るボクサーはいない」とパッキャオやタイソンも教えたローチが断言する天賦の人です。
ミドル級160ポンド(72.57kg)からヘビー級200ポンド(90.72kg)の40ポンド(28.17kg)に渡って世界トップレベルのパフォーマンスを見せました。ロイ・ジョーンズJrのヘビー級制覇が「空き巣泥棒」と揶揄され、それに反論できない鈍重な相手から勝利した「ひったくり」の1試合だけだったことを考えると、イベンダー・ホリフィールドをKOした星を始め、ハシム・ラクマン、サミュエル・ピーターらと拳を交えたトニーさんの功績はもっと評価してあげていいと思いますね。
ヘビー級を90.72kgで定義するのはナンセンスですから、トニーさんは実際には40ポンドどころではない体重の大航海をやってのけたことになります。リングに上がった最も重いウエイトは237ポンド(107.5kg)ですから、体重計の目盛りの振幅はパッキャオの比ではありません。
人間が決めた「階級」「王座」ではなく、「世界トップレベルで戦った体重の幅」で考えると、パッキャオはトニーさんの軍門に下ります。
「世界王者」としての体重の幅という観点から見ると当然、パッキャオが最大の振幅を見せつけます。しかし、パックマンが制した最も重い階級はジュニアミドルですがその試合は150ポンドのキャッチウエイトで行われ、なおかつリングには144ポンド1/2で上がっているのです。
ウエルター級を侵略したミゲール・コット戦(これも145ポンドのキャッチウエイト)は144ポンド、直近のジェシー・バルガス戦でも144ポンド3/4とパッキャオはジュニアミドルのリミットはおろか、ウエルター級ですら明らかに適正階級ではないことがよくわかります。
リミットを1kg前後も下回った体重でリングに上がっているというのは、ボクシングの常識では考えられません。パッキャオの適正階級はライト〜ジュニアウエルター級か、あるいは最もスピードとパワーのバランスが高い次元で結晶するのはジュニアライト級なのかもしれません。その適正階級でのベースがとにかく図抜けて高いから、はるかに上、最もレベルの高いウエルター級でも十二分に通用するパフォーマンスが披露できるわけです。
自分の体格・体重とはお構いなしに、最もカネと名誉が稼げる階級を求めて、より大きな看板をぶら下げたビッグネームの体臭を嗅ぎつけて、アジアの猛獣が辿りついたのが、ヘンリー・アームストロングやシュガー・レイ・ロビンソンから、レナード、ハーンズ、デュラン、フェリックス・トリニダードの系譜に連なる、デラホーヤやコット、メイウエザーが住んでいるウエルター級だったのです。
そういう意味ではパッキャオのジュニアライト級以降の階級制覇は、ロマゴンに代表されるような「この階級で体重を作ることはもう難しい」という肉体的な要因は全く無く、露骨に剥き出した「カネと名誉」への欲望に身を任せて拳を振り回し、突っ走った結果でした。
カネと名誉に目が眩んでいた頃のパッキャオは本当にエキサイティングなファイターでした。
しかし、あれほど飢えた猛獣でもカネと名誉を全て手に入れてしまったら、やはしパートタイムの番犬みたいになってしまうんですね。パックマンの貯金通帳には改めて桁を数えなければ、一目でいくらかわからない金額が記帳されていることでしょう。羨ましい限りですが、彼はもう一つ、貯金通帳を持っています。
もう彼の試合にギラギラの欲望の炎が燃え盛ることは期待出来ないということを十分にわかっていながら「まだヤツには猛獣の血が流れているはずだ」と多くのファンがやっぱり期待してしまいます。それこそが、彼がこの15年間大暴れするたびに貯め込んで来た目には見えない貯金通帳です。
この通帳残高がゼロになるまでパッキャオは戦い続けるつもりかもしれませんが、個人的にはもう十分です。ハイエナに莫大な貯金を食い尽くされる前に、何より健康な体のまま引退して、本物の貯金通帳をしっかり管理しながら母国を幸せにするために働いて下さい。

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