2016年1月14日木曜日

年末の衝撃

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Sports Graphic Number Web 2016/01/13 10:40
井上尚弥と内山高志、年末の衝撃。世界最高のボクサーは日本にいる
ボクシング界の2015年は恒例の年末世界戦ラッシュで幕を閉じた。東京、名古屋、大阪で計7試合行われた世界タイトルマッチは、IBF世界ミニマム級王者の高山勝成(仲里)が王座から陥落し、3階級制覇を達成した八重樫東(大橋)が新たにIBF世界ライトフライ級王者に輝いた。
 どの試合もそれぞれ興奮があり、味わい深い内容だったが、中でも圧倒的なパフォーマンスを見せたのはWBO世界スーパーフライ級王者の井上尚弥(大橋)とWBA世界スーパーフェザー級“スーパー”王者の内山高志(ワタナベ)ではなかっただろうか。日の出の勢いの井上、成熟の境地に達した内山の試合を振り返りながら、両チャンピオンの2016年を占う。
 国内史上最速(当時)となるプロ6戦目で世界タイトルを獲得し、世界最速となる8戦目で2階級制覇を達成した井上。特に2014年の暮れに、オマール・ナルバエス(アルゼンチン)を2回TKO勝ちで圧倒した一戦は、日本のみならず、海外のメディアがこぞって驚嘆の声を挙げた。プロ8戦目の21歳が、フライ級タイトルを16度、スーパーフライ級タイトルを11度防衛していた歴戦の強者を、赤子の手をひねるように一蹴してしまったのだから、世界中が口をあんぐり開けるのも当然だった。
ブランクもプレッシャーも関係ない圧倒的強さ。
 ただし、プロ9戦目となったワルリト・パレナス(フィリピン)との初防衛戦は「そう簡単にはいかないだろう」と思っていた。ナルバエス戦で右拳を痛めた若き王者は3月に拳を手術。秋までは右を使って練習することができなかったからだ。
 いくら“怪物”のニックネームを持つ井上とはいえ、初めて経験する1年のブランクが試合に影響を与えないはずがない。加えて1年前の試合で、いわば最高得点をたたき出したのだから、世界から注がれる視線はうんとハードルが上がっていた。パレナスの力量を考えれば、負けはないだろう。ただし、長期ブランクと過大なプレッシャーを考えれば、苦戦ないし消化不良の試合は十分にあり得る。私はそう予想していた。
 ところがだ。ふたを開けてみると、ブランクやプレッシャーなど、あまりにも些細な要素に過ぎなかった。1年ぶりに生で観る井上の躍動感は別格だった。異次元という言葉が頭に浮かんだ。リングサイドにへばりつくようになってもう10年以上がたつが、その動きを見ているだけで、これほど圧倒されたボクサーは過去にいなかった。
ガードの上から効かせる右に会長も呆れ顔。
 2回、井上が右を放つ。パレナスはブロックしていたにもかかわらず、これがダメージングブローとなる。フラフラになった挑戦者はこのあと2度のダウンを喫して試合終了。
 圧巻である。所属ジムの大橋秀行会長は「ガードの上から効いちゃうなんて、ヘビー級じゃないんだから」とあきれ返るしかなかった。当の本人は「昨年もパーフェクトだったけど、今年もパーフェクトだった」と涼しい顔だ。いったいこの怪物はどのレベルにまで到達してしまうのだろうか。末恐ろしいとはまさにこのことである。
 拳の傷も癒えた井上は2016年、さらなる飛躍を志している。プランとしては春に国内で防衛戦をして、年内にアメリカで試合をするというもの。もちろん見据えるのは軽量級最強と言われる3階級制覇王者、ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)との頂上対決だ。
 44戦44勝38KO無敗のゴンサレスは、海外のメディアがこぞって現役ナンバーワン・ボクサーに挙げている。いくら井上が怪物といっても、現時点ではかなわないと見るのが常識である。しかし個人的には、パレナス戦を見て「ゴンサレスに初めて土をつけるのは井上しかいない」との思いを強くした。
年長のゴンサレスが井上戦を急ぐ可能性も?
 ゴンサレスも井上を意識し直したのだろうか、年が明けてから海外のメディアに気になる発言をしている。3月にWBC世界フライ級王座の防衛戦をして、その後はクラスを上げてWBC世界スーパーフライ級王者のカルロス・クアドラス(メキシコ)に挑戦したい、というものだ。いよいよ井上との激突に向け、本気になってきた証とは考えられないだろうか。もし、無敗の世界王者クアドラスとのファイトを井上戦への“肩慣らし”と考えているのだとすれば、それもすごいことである。井上とゴンサレスの一戦はまさに“モンスター対決”と言えるだろう。
 大橋会長は「ゴンサレスとやるにはもう少し経験を積んだほうがいい」と語っており、夢対決は即実現というムードではない。ある程度焦らしたほうがファンの興味をより引くという効果もあるだろう。ただし、時間がたてばさらに伸びるのは若いチャンピオンだ。実際に1年のブランクをものともせずに大きな成長を遂げた。そう考えると、ゴンサレスが「今のうちに」と勝負を急ぐ可能性も否定はできないのではないだろうか。ゴンサレスという最高の標的を得て、井上の成長スピードは一段と速まると予想される。
怪我が5年ぶりに完治した内山も完勝。
 一方、5年連続して大みそかのリングに立った内山は、世界チャンピオンの中でも御大らしく「さすが」とうならせる隙のないパフォーマンスを披露した。
「すごく調子がよかったので、逆にじっくり、中盤からペースを上げていこうと話していた」
 これが試合前のプランだったそうだが、左右の拳、左ヒジのけがに泣かされ続けたスーパー王者が5年ぶりに万全の身体を手に入れたのだ。「じっくりいく」なんてどだい無理な話だった。
 瞬く間にオリバー・フローレス(ニカラグア)をコントロールすると「そろそろ下も打とう」と思った3回、コンパクトな左フックを挑戦者のレバーに一閃。フローレスはたちまち悶絶して試合は終わった。結末に驚きは一切なかったが、実力がいま一つのチャレンジャーにダラダラした試合をせず、スパッと終わらせるところに一流のチャンピオンらしさを感じさせた。
内山は、決して相手をインサイドに入れない。
 短い試合ながらあらためて感じたのは、内山は対戦相手を絶対にインサイドに入れないことだ。それを可能にしているのは、強靭な肉体と重厚で多彩なジャブである。内山の試合でクリンチは起きないし、ロープに押し込まれたり、乱戦に巻き込まれたりもしない。
 それは相手のパンチをもらわない距離とポジションを常にキープしているということでもある。言うは易しで、これを実行するのは難しい。相手のレベルが上がればなおさらだ。内山が一流たるゆえんである。
 その内山は11度目の防衛を成功させ、何度も報じられているように、今年は36歳にしてついにアメリカに進出することが決定的だ。ファンの期待とは裏腹に、本人はこれまで米国進出をそれほど強くは主張してこなかったが、やはり世界中から好選手が集まるアメリカへの思いは強かったのだろう。「日本人がダメだと思われるわけにはいかない。(アメリカでの試合は)いいモチベーションになっている。だれとやっても勝つ自信はある」と力強く語っている。
米進出、そしてV13に挑む2016年。
 モチベーションの高まった内山を、さらにやる気にさせたのは対抗王者、三浦隆司(帝拳)のファイトである。WBC世界同級王者だった三浦は昨年11月、ラスベガスで防衛戦を行い、敗れはしたものの米国のファンを熱狂させる激闘を披露した。この試合は米国の大手メディアがこぞって2015年のファイト・オブ・ザ・イヤー(年間最高試合)に選んだほどで、三浦は敗れてなお株を上げた。かつて三浦に勝っている内山にしてみれば、思うところあって当然であろう。
 今のところ米国デビュー戦の相手は、無敗の前WBA世界フェザー級“スーパー”王者のニコラス・ウォータース(ジャマイカ)が有力だ。ウォータースとの試合に快勝すれば、現時点では決して高くないアメリカでの知名度も一気に上昇する。
 米国デビュー、そして具志堅用高の持つ連続防衛記録V13へのチャレンジと、2016年は内山にとってのビッグイベントが立て続けにやってくる。成熟のチャンピオンは試合後「あと3、4年はやれると思う」と語った。内山の黄金期に終わりは見えない。

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