拳論 2014-09-09
八重樫×ロマゴン、視聴率とその余韻
八重樫×ゴンサレスなどを放送した5日、フジテレビの世界タイトルマッチは9.3%の視聴率だった。
…フジのボクシング中継は昨年から放送してきた中では最高値。
慌てて書いた試合前のプレビュー記事で、僕は興行がテレビ視聴率を上げるためのショーになりすぎるとスポーツの本質的な面白さと反するという話を書き、八重樫×ロマゴンが、その方向性とは逆で、プロボクシングの尊厳を守る本来の戦いだとした。結果的にどうだったか。おそらく最後まで試合を見た人のほとんどが、深夜になってやっと放送された八重樫×ロマゴンのファイトに感動したのではないか。
…
それを示せたのは試合に勝った彼らではなく、敗者・八重樫だった。
大差判定負けの王座陥落。花道を過ぎて号泣した八重樫・・・この結果だけ見れば、敗北の一語に終わるのが勝負というものだが、プロの舞台においては必ずしもそれで終わらない。
放送には入らなかったようだが、試合後、冨樫光明リングアナが思わず「真っ向から打ち合った最も勇敢な日本男児に賛辞を!」とアナウンス、会場がこれに賛同するように一斉に拍手。「ありがとう八重樫!」という声が重なった。
試合を最も近い位置で見ていた同アナは「八重樫の気迫がすごくて、初回でロマゴンの強打を思い知らされたのに、それでも打ち合っていて、大袈裟でもなんでもなく、見ていて泣きそうになった。 さらに試合直後にロマゴンが泣いていたのも心が震えた」と話した。同じように思った人が観衆にどれだけいたことだろう。「これがボクシングだ」と叫んだ人もいた。
プロボクシングの尊厳を守るようなマッチメイクで見事、両者がそれに値する試合を見せた。どんなに周囲が誰かを主役に据えようとも、スポーツのリアリティの前では主役は登場人物自身の裁量に委ねられる。
試合は初回、八重樫は小気味よく動いてジャブ先制。気後れしていないことを見せ、ロマゴンの射程距離に入らないよう足を使ったが、早くもロープに詰められる場面が出ていた。3回、自らワンツーなどを放つも、左フックがカウンターで入って尻もちダウン。ダメージは大きくなさそうだったが、これでロマゴンに勢いづかせてしまい、動きまわっても乱すことができなくなっていた。4回終了は39-36、40-35、40-35と3者ゴンサレス。
中盤、試合は徐々に激しいパンチの交換が増えた。「もっと出入りを」と思った人もいるだろうが、そうしないのではなく、そうさせてもらえなかったんどあろう。何しろ得意の踏み込んのパンチには左フック、右ストレートを合わされ、直後にプレッシャーを強められ、気がつけばロープ際。8回のラッシュで足が鈍っていく八重樫は、必死の反撃が大振りになっていて、ロマゴンにとってはやりやすくなっていた。ロマゴンに決して余裕があったとも思えないが、弱みをできるだけ見せないところも彼の武器だった。一発でもロマゴンの顔色を変えさせるようなヒットがあったら・・・とも思ったが、79-72が2者と80-71の大差採点がコールされた後、八重樫は覚悟を決めたように中央に立った。いいフックを当ててもロマゴンは冷静に小さな連打をまとめていて、その差は不変。必死に左アッパーを返したが、力の衰えない連打に八重樫はついに後退。左アッパー、右ストレートに倒れると、レフェリーが止めた。試合をストップした。こうして文章で振り返ってみても、完敗といった感じがする。しかし、僕らの見たものはそんな単純なものでもなかった。
「打たれたら打ち返すという根本的な部分でしか勝負できませんでした」 八重樫はそう言ったが、それこそプロボクシングに求められるものでもあった。エンターテインメントとしてのプロボクシング
で我々の心を最も揺さぶるのは、単なる技術の競い合いだけでもなく、また派手な演出によるドラマ作りによるものでもない。そこらの凡人がいくらマネしてもできないレベルの「プロフェッショナル」な戦いで、それがこの試合に詰まっていた。相手が強いのは百も承知、それを崩すために決死の勝負に出る。そういう点はこのレベルになると勝者も敗者も同じだ。八重樫もロマゴンも紛れもないプロフェッショナルな仕事をこなしたが、片方だけでは決してなしえないものだった。特に敗者・八重樫には彼なぜこんな戦いを見せられたのか、感動する試合を見たときにだけ思い出すクエスチョンがまたいま僕の頭の中にある。試合を見た翌朝、目が覚めて真っ先に思い出したのも八重樫の奮闘だった。感動の余韻はいまもまだ消えていない。視聴率が何パーセントだったかは記者の分析データとして必要でも、この感動にとってはどうでもいいもののように思った。ひとつ言えるとすれば、もっと数字の稼げるコンテンツはほかにあるのかもしれないが、こういう本物の試合を大衆に伝える価値は絶対にある、ということだ。

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