http://www.plus-blog.sportsnavi.com/kadoebi1/article/494
角海老-ボクシングコラム「両国に咲かせた八重の桜」 2013年04月13日
秋田県由利本荘市出身の王者・五十嵐俊幸(帝拳)と、岩手県北上市出身の挑戦者・八重樫東(大橋)による「東北ダービー」となったWBC世界フライ級タイトルマッチ。青コーナー側もとい東側から先に入場した挑戦者陣営の大橋秀行会長、松本好二トレーナーは、聖飢魔IIの「EL DORADO」をBGMに勇ましく入場してきた王者に対して、満面の笑みを湛えて拍手で迎え入れた。挑戦状を受け取ってくれた王者へ最大限の感謝と敬意を払う光景。胸が熱くなったのと同時に心が洗われる気分になったが、実はこの一戦、ライバル関係にあったのは選手間だけではない。
八重樫のチーフトレーナーの松本氏、五十嵐を指導する葛西裕一トレーナーが横浜高校・専修大学で同じ釜の飯を食った旧友であることは、長くボクシングを見続けているファンの方ならば、御存知であろう(大橋会長の直系の後輩にもあたる)。現役時代ともに3度の世界挑戦を経験し、グローブを置いた後は3名の世界王者を育て上げ、選手としても指導者としても常に相譲らぬ実績を残してきた両氏。その教え子同士が世界タイトルを懸けて激突するのは、記憶を紐解く限り、初めてのはずである。五十嵐と八重樫の個人闘争だけではなく、セコンド陣を含めた全面戦争の様相も呈したマッチアップは、期待に違わぬ東北魂が伝わってくる激戦となった。
リーチで9cm劣る八重樫は初回から積極果敢なアタックを仕掛け、早々に五十嵐を自分のペースに巻き込んだ。その成功要因には「ミニマムとフライの差」を挙げたい。通常、階級差が生じる場合は上のクラスの選手が有利と見られる。しかし、今回は稀に見る逆転現象が起きた。アテネ五輪日本代表の経歴を持つサウスポー五十嵐は“スーパーソニック”の異名を持つスピードスター。同じ元アマエリートの八重樫と目まぐるしい攻防を展開したが、終始後手に回らされる展開を強いられた。両者のスピードにおける絶対値に著しい差があったとは思わない。ところが五十嵐は突進してくる八重樫のスピードを持て余し、挑戦者の術中にはまっているように映った。
そんなスピードに特化した両者の命運を分けたのは、相手の機動力に対する処理能力ではなかったか。どのクラスよりもアジリティー(敏捷性)が求められる最軽量級のミニマム級を長らく主戦場にしてきた分、八重樫は相手のトップスピードに対応できる能力で一枚上回った。生粋のフライ級である五十嵐にフィジカルで劣らない肉体を作り上げたことは、八重樫が乱戦に持ち込めた大きな要因であったが、単純な押しの強さで言ったら、五十嵐が僅差で勝利を掴んだ前王者のソニー・ボーイ・ハロ(比)には及ばないだろう。やはり五十嵐の歯車を狂わせたのは、ミニマム級時代と変わらぬ八重樫のスピードだったはずだ。・・・

0 件のコメント:
コメントを投稿