Number Web 2019/06/16
スポーツ名言集
2019年06月16日の名言
井上尚弥の名言
今日の名言
12回戦でなく3回戦なら今すぐにでも井岡さんに勝つ自信がある。
井上尚弥(ボクシング)
2012年の発言。まだ高校を卒業したばかりの男が、当時の世界王者の名前を挙げてこう言い切る――。普通に考えれば身の程をわきまえない表現だが、その言葉の主は誰あろう、井上尚弥である。アマ時代から「怪物クン」と騒がれていた井上の実力が知れ渡ったのは、同じ大橋ジム所属である八重樫東とのスパーリングでのこと。井岡との統一戦に臨むにあたって八重樫の相手を務めたのだが、その戦いぶりについて大橋秀行会長が「5R中3Rは(八重樫が井上に)取られた」と語るほどだった。WBSSという大舞台で早期KOを連発している井上は、10代の頃から規格外だったのだ。
Number808号(2012/07/19)
https://bit.ly/2WGAyoP
Number Web 2012/06/21 11:30
井岡vs.八重樫の激闘を徹底検証。本物の世界戦で本物の王者を見た!
対戦中、何度もドクターストップ寸前までいったが、八重樫は「僕はもともと目が細い顔なんですよ! 続けさせて下さい!」と言い続けた。井岡は今後はライトフライ級に階級を上げて2階級制覇を目指すことになる。八重樫も同様に階級を上げ、再戦の意志を表明している。
国内初の2団体統一戦として話題を呼んだWBC・WBA世界ミニマム級王座統一戦は、WBC王者の井岡一翔(井岡)がWBA王者の八重樫東(大橋)を3-0の判定で下して幕を閉じた。いずれも1~2ポイント差という僅差の判定だった。
試合は12ラウンドを通してどちらに転ぶか分からず、各ラウンド3分の間でも、めまぐるしく優劣が入れ替わる展開となった。
判定通り井岡の勝利と見た者がいる一方で、八重樫の優勢と感じた者もいたはずだ。ボクシングファンが手に汗握るファイトに酔いしれた夜、白熱の好ゲームであったからこそ、ここはあえて採点という立場から冷静に試合を振り返ってみたい。
八重樫の唯一の誤算だった、初回に受けたまぶたへのダメージ。
青コーナーの八重樫は好調な滑り出しに見えた。ジャブの差し合いで井岡に引けを取らず、鋭い踏み込みと連打でジャッジに攻勢をアピールした。唯一の誤算は初回にまぶたを腫らしたことである。
「見えなくはならなかったけど、見えにくくはなった。距離をうまく測ることができず、前に出るしかなくなった」(八重樫)
選択肢を失った末の戦い方とはいえ、パワーというアドバンテージを生かし、積極的に前に出るアタックは、ジャッジに、そして試合を見ているファンに攻勢をアピールする効果があった。
八重樫のパンチは井岡よりもワイルドで、ガードの上を叩いてもバシバシと景気のいい音を立てる。俗に言う「見栄えがいい」攻撃だ。実際に右アッパーや右ストレートなどのビッグパンチも打ち込み、井岡以上に会場を盛り上げたと言っても過言ではない。打ち合ってもパンチの回転力と迫力では上回っていた。見せ場を多く作り、もしジャッジ構成が違っていれば、逆の判定も十分にあり得ただろう。
だが、これを赤コーナー、井岡側から見ると景色はまったく変わってくる。
八重樫に決してポイントを取らせないという戦い方。
4回終了時の公開採点は3者ともドローだったが、井岡陣営は首をかしげていたという。
「ペースをつかんでいると思っていたので意外だった。少し焦りました」(井岡)
セリフとは裏腹に、井岡はおおむね冷静だった。八重樫のまぶたを腫れ上がらせた右のショートパンチは狙い通り。事前の分析で当たると用意していたパンチだった。
ジャッジの支持を得るという視点に立つと、持ち味の堅守は見逃せない。
八重樫が迫力のある連打で攻め立てる場面で、井岡はそのほとんどをカバーリングで対処している。一見したところ八重樫の攻勢に見えるのだが、井岡がしっかり防御をしているので、八重樫のポイントにはならない。特に海外のジャッジはそういう見方をする傾向が強い。
また、相手に攻勢を許したあとの対応にもうまさを感じさせた。
八重樫がパンチをまとめてきたときは、必ずジャッジの頭の中でそのシーンのイメージが固まる前に打ち返した。たとえカバーリングでクリーンヒットを許さずとも、打たれっぱなしではやはり印象が悪い。だから古今東西の強豪選手は打たれたらすぐさま反撃するのだ(八重樫もすぐさま反撃していた)。
判定勝利のカギは、井岡のジャブの巧みな使い方にあった。
攻撃面のキーは生命線のジャブだった。きれいに顔面を射抜くジャブはジャッジに好印象を与える。
「2ラウンドが終わって帰って来たときに指示しました。とにかくジャブ。ジャブを打ってワンツー、左フック、右アッパーを打ってジャブやと」(井岡の父、一法トレーナー)
どちらにポイントを振るか悩ましいラウンドで、ジャブの効果は確かに大きかった。
八重樫に比べて迫力に欠けるパンチも、実は硬質で、ピンポイントで相手にダメージを与える力があった。八重樫のまぶたが見るも無残に腫れてしまったことと、パンチの質は無関係とは言えないだろう。
パワーと攻勢の八重樫。堅守と緻密な攻撃の井岡。2つを天秤にかけた結果、わずかに後者の上回るラウンドが多かったということだ。これがジャッジの出したクリーンで正当な結論だった。
今回の統一戦で尽力した大橋会長と井岡会長の功績。
今回の統一戦実現においては、八重樫サイドの大橋秀行会長の英断がまず初めにあった。
日本プロボクシング協会のトップも務める大橋会長は、統一戦の実現がボクシング人気回復の手段として欠かせないと考えていた。だからこそ、テレビ局と話をまとめ(八重樫の世界戦を放映していたのはテレビ東京だった)、敵地である大阪に乗り込むことを厭わず、統一戦をスムーズに実現させた。
八重樫よりも知名度の高い井岡は、負ければ失うものが大きく、そういう意味では井岡弘樹会長の心意気も素晴しかった。
ジムの思惑やテレビ局との交渉を乗り越えた今回の一戦が成功したことで、今後、統一戦は主流となっていく可能性が高まったのではないだろうか。
粟生、内山、山中、亀田……好カードの材料は揃っている!
WBC世界スーパーフェザー級王者の粟生隆寛(帝拳)は「気持ちが盛り上がってきた」と話し、同じくWBA同級王者の内山高志(ワタナベ)も「やるしかない」と興奮気味だった。
バンタム級も、WBCの山中慎介(帝拳)、WBAの亀田興毅(亀田=現在は休養王者)と日本人チャンピオンが顔をそろえる。統一戦ではないが、スーパーバンタム級でWBCの名誉王者となっている西岡利晃(帝拳)と、バンタム級タイトルを10度防衛した長谷川穂積(真正)との対戦が実現しても、ファンは試合会場に殺到することだろう。
ハイレベルな技巧を有するボクサー同士が、高いモチベーションでリングに上がれば、好ファイトが生まれ、見ている者に喜びと興奮を与えられる。そんな当たり前の現実を、井岡と八重樫はあらためて教えてくれた。世界タイトルマッチという額縁だけ立派な贋作のようなファイトには、だれもお金を払いたくないし、テレビの前に座ろうとも思わない。本物のスターも好カードの中からしか生まれないのである。
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