2019年5月17日金曜日

「過去最強の相手」

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Number Web 2019/05/17 17:00

井上尚弥が戦う「過去最強の相手」。70秒KOから一転、技術戦の可能性?
世界を驚かすWBA世界バンタム級チャンピオンの井上尚弥(大橋)がいよいよ英国のリングでIBF同級王者、エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)と拳を交える。
 試合はバンタム級最強を決定するワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)準決勝の1つ。最高の檜舞台で“モンスター”はいかなるパフォーマンスを発揮してくれるのか。試合の行方を占った。
 快進撃を続ける井上がその力を満天下に知らしめたのが2018年だった。バンタム級にクラスを上げて、いきなりWBA王者のジェイミー・マクドネル(英)を初回TKO。未知の階級で10年間負けていなかった王者を圧倒したのには驚かされたが、続くWBSS初戦で元WBAスーパー王者のフアン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)までも日本人選手の世界戦で最速となる70秒で沈めてしまったのだから、もはや漫画の世界だった。
 井上の強さはあらためて言うまでもなく、その強打と抜群の距離感にある。
 加えて近年は、集中力が一段と研ぎ澄まされ、居合の達人のように相手の一瞬のスキを逃さないすごみも増してきた。もう手が付けられないとは井上のことである。
今度こそ“産みの苦しみ”を味わう?
 試合を見ているファンも、そうした雰囲気を十分に感じ取っていることだろう。「次はもっとすごいパフォーマンスを見たい」と期待を膨らませるのはある意味当然と言えるだろう。ただし、そんな思いに冷や水を浴びせるわけではないが、「今度こそは井上が“産みの苦しみ”を味わうのではないか」という材料をいくつか紹介したい。
 まずは“衝撃の2連続1ラウンドKO”がもたらすマイナス効果だ。
 いい試合をしたあとは、さらなる期待にこたえようと思うあまり、試合内容が乱れるケースがよくある。どこかに「またKOできる」という心のスキが生まれることも珍しくはない。歴史上のどんな名ボクサーでもすべての試合が素晴らしいわけではないのだ。
井上は1カ月スパーリングなし。
 特に井上の場合は前回が70秒だから、それ以上のインパクトとなれば、タイムでいえば1分以内。そんなことは狙ってできるものではないが、周りは「ひょっとすると」と期待してしまうものである。
 そうした状況で、井上は昨年から年をまたいで自らのボクシングを見失った。相手を圧倒しようと力任せのスパーリングが多くなり、「頭では分かっていても、やっぱりどこかで意識する」(井上)ために、自らをコントロールできなくなった。
 井上はこの窮地を1カ月にわたってスパーリングをしないことで乗り越え、完全に調子を取り戻したが、試合への影響はゼロとは言い切れないのではないだろうか。
無敗ロドリゲスとの対戦は事実上の決勝?
 加えて対戦相手のロドリゲスである。井上は「過去最強の相手。簡単な試合にはならない」、父の真吾トレーナーは「五分五分」とIBF王者を評した。気持ちを引き締める意味が込められているにしても、父子ともにロドリゲスを高く評価しているのは間違いない。
 前回の試合で判定勝ちを収めたロドリゲスは、もともとスピードがあり、鋭いジャブやカウンターは精度が高く、近距離でも腕をたたんでシャープなアッパーやフックを打ち込む実力者である。
 アマチュア時代にユース・オリンピックで金メダルを獲得し、プロ戦績は19戦全勝12KO。井上(17戦全勝15KO)と同じくいまだ無敗だ。
 井上が昨年対戦したマクドネルやパヤノは実力者ではあったが、やや峠を過ぎた印象はあった。それに対しロドリゲスは井上の1歳上で、若さと勢いも兼ね備えている。井上がロドリゲスを過去最強とみなすのは「同世代」であることも大きな理由だ。WBSSバンタム級において井上vs.ロドリゲスが事実上の決勝、と報じる海外メディアさえある。
中盤以降も焦りは禁物。
 直近の2試合が本人の言うように「出来すぎだった」と仮定し、ロドリゲスの力量を「井上に近いレベル」と想定してみると、井上は慎重に立ち上がるに違いない。ジャブをていねいに突きながら距離を測り、フェイントをかけ、ボディにパンチを散らしながらタイミングを読む。
 そんな息詰まる攻防が初回から繰り広げられるのではないだろうか。
 中盤以降も焦りは禁物だ。ロドリゲスに少しずつダメージを与え、決定的なリードを奪わない限り、無理してノックアウトは狙わない。最も大事なのは欲を出さずに勝利に徹することだ。そのままノックダウンのシーンはなく、大差の判定でゴールテープを切るのも悪くない。
玄人好みの技術戦に?
 もちろんパワーで勝る井上が中盤に、終盤に、場合によっては序盤に爆発するケースも十分に考えられる。
 おそらくロドリゲスは井上ほどの強打者と対戦したことはないはずだ。序盤に1発いいのをもらい、それがたとえガードの上からであっても、井上のパンチに怖気づくようなことがあれば試合は一気に片がつく。モンスターの本能がたちまち反応し、ロドリゲスを飲み込んでしまうことになるだろう。
 短時間で豪快なKOはもちろん悪くないのだが、玄人好みのフルラウンドの技術戦もまたボクシングの醍醐味だ。ロドリゲスとの一戦は後者の展開になる可能性を大いに秘めている。
 歴史にその名を刻むようなバンタム級最高峰のファイトを期待したい。

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