2019年1月2日水曜日

「強い相手がいるんだ」

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CoCoKARAnext  2018/12/30

師匠が語る井上尚弥の心技体「思考法編」~人間を成長させてくれる「黄金の時間」~

 「地球上最強のアスリート」と言っても過言ではないであろう、ボクシング・井上尚弥。12月30日には弟・井上拓真が初の世界戦に挑み、兄弟での世界王者が期待される。

プロ17戦17勝(15KO)。一時期は強すぎるがゆえに、「闘う相手が見つからない」と言う悩みも抱えたが、2018年10月に行われたWBSSの1回戦では圧勝。

 その強さの秘密はどこにあるのだろうか。

井上の所属ジム会長で、現役時代は「100年に1人の天才」と言われた元世界チャンピオン・大橋秀行さんに、「150年に1人の天才」と呼ばれる井上尚弥の心・技・体、最終回の今回は「思考法」について語ってもらった。

井上尚弥の学生時代を大橋秀行さんが見て感じた事


 周りは井上尚弥というボクサーを「怪物」や「天才」と評価してくれています。

アマチュア時代に史上初の7冠を達成し、プロになってからも現在まで17戦17勝(15KO)無敗。ジムの会長である私が言うのもおかしいですが、無類の強さをリング上で証明してくれているわけですから、彼の称賛が絶えないのは当然と言えば当然なのでしょう。

 でも、井上は決して順風満帆なボクサー人生を歩んでいるわけではありません。敗北や怪我を克服し、謙虚に努力を重ねているからこそ、今があるのです。


そういった井上の資質を初めて感じたのは、彼がまだ学生の頃でした。

小学生の時に試合を観たことはありましたが、実際に面識を持つようになったのは、中学3年生の井上が大橋ジムに初めて出稽古に来てからです。

当時、東洋太平洋チャンピオンの八重樫東がスパーリングの相手をしたのですが、「中学生にしては強いですね」と彼が放った言葉が、父親の慎吾さんはとても気になったようで。そこから「尚弥はもっと強くならないとダメだ」とトレーニングに精を出したと言います。

それは、井上親子が純粋に負けず嫌いだったこともあるでしょうが、私としては「強い相手がいるんだ」と肌で実感した喜びにも似た感情だったのではないか、と思いました。

強い相手を見つけた時の喜び

 井上が高校2年で経験した敗戦も、後の彼を形成する上で大きな転機だったはずです。最近、テレビ番組にも出ていましたが、当時、林田太郎という天才ボクサーがいました。全日本アマチュア選手権の決勝で井上が彼に敗れた時、私から「林田に勝ちたいのなら、八重樫と多くスパーリングをしたほうが良い」とアドバイスをすると、頻繁にジムに来るようになりました。
何度もグローブを交えることで次第に八重樫を翻弄する回数も増え、自信をつけた井上は、その後、林田に勝利する訳ですが、ここから一段と強さが増したと私は見ています。

 この時から、すでにボクシングが生活の一部となっており、強くなることが何より楽しいと感じていた井上を見て再認識させられたことがあります。

人間を成長させてくれる「黄金の時間」

 それは「黄金の時間」は、やはり人間を成長させてくれるのだな、ということ。

 学生時代に生活の一部を犠牲にしてでも好きなことに打ち込む事を、私はそのように表現しています。

友達とたくさん遊びたい等、若い時期は誘惑が多い。そこをグッと耐え、本当に好きなこと、将来的に必要だと感じた物事に全力を注ぐ。学生なら、それは勉強であり、部活動になるでしょう。
この多感な時期に本気で何かを得ようと努力した人間には、数年後に必ず何かしらの形での成果が待っています。逆に、誘惑に負けた人間は「何であの時やらなかったんだろう……」と絶対に後悔する。

これは、誰もが経験する紛れもない事実。井上にとって、それがボクシングだった訳です。


 今でもその姿勢は変わりません。試合の1か月半前になると、ジムから近い横浜市内のホテルにたった一人で泊まり、最後の追い込みをかける。有名だろうと無名だろうと、井上はスタンスを一切変えず、練習から試合までフルスロットルなのです。

才能だけではない井上尚弥

 世界チャンピオンにもなれば、大勢の人の視線を集めます。ジムには一般の練習生もいますし、取材などでメディアの方たちが訪れる日だって多い。
そうなると、どうしても「見せる練習」になりがちなのです。周りを意識するあまり、中身ではなく見栄えを気にししてしまうのは、仕方がないと言えば仕方がない。
でも、井上は誰が見ていようと全力。自分が強くなるためならば、格好悪い姿を見せてもいい。本質がブレていないのです。

 何度でも言いますが、井上は才能だけで「怪物」と呼ばれるボクサーになったわけではありません。同じジムの先輩である川嶋勝重や八重樫にも言えることですが、3人には謙虚さと努力をする才能があった。

ボクサーとして天賦の才があったとしても、それがなければ世界の頂点には立てないし、それを維持することもできません。私たち指導者は、そのことを選手に理解させた上で、心と体、そして技術を飛躍させるサポートをしていくことが大事なのだと思っています。



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