2018年12月26日水曜日

土居トレ

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文春オンライン 7時間前
「バカにされても関係ねえ」NPB経験ゼロでメジャーに挑む安河内駿介の思い
文春野球コラム ウィンターリーグ2018

「安河内駿介、メジャーリーグに挑戦します」 

12月18日、突如としてMLB挑戦を表明したこの男は、今年5年ぶりに公式戦のマウンドに立ち、既に24歳。そして、NPBの経験は無い。“普通なら”現役を引退する要素は十二分に持っている。だが彼は辞めないどころか、最も厳しい道を選んだ。

出会いを最大限に生かす男
 中学1年時に最初の右ひじの怪我をし、熊本・秀岳館高校でも3番手。最後の夏は救援として登板した県大会準決勝で逆転打を浴びて甲子園出場の夢を絶たれた。

 そんな安河内が一時、脚光を浴びたのが東京国際大の下級生時代。「ひたすら野球が上手くなりたい、150キロを投げたい」との一心で貪欲に取り組み、1年春から登板機会を得ると、2年時にはエースとして創価大ら強豪校とわたり合った。だが3年時に右ひじを痛めると、4年時には右肩が上がらなくなった。野球は諦めて就職活動をし、地元福岡の大手企業から内定を得た。

 そんな時、転機が訪れる。高校時代から診てもらっていた福井県にある山内整骨院に引退の報告をすると、「一度ウチに来い」と言われ施術を受けた。すると、上がらなかった右肩が上がるようになり、3日後にはネットスローができるまでになった。そこで安河内は現役続行を決意。安定の道を捨て、大学同期のマネージャーに紹介してもらった世田谷学園高校でコーチを務めながら所属チームを探すことにした。

 その頃、よく通っていたのが土居進のもとだ。

 土居は、高校時代は帰宅部、慶大時代は軟式野球サークルに在籍し、大学卒業後に大手企業で働いていたが一念発起してトレーナーに転身。その後は魔裟斗、内山高志、八重樫東といったトップレベルの格闘家に信頼されるトレーナーとなっていった。

 そんな中、東京国際大で非常勤講師を務めていたことがきっかけで安河内と知り合った。当時、安河内はすでに怪我をしており試合で投げる姿は見ていないが評判は他の野球部員から聞いていた。

 第一印象は「特に下半身にパワーはあるが“耐える筋肉”がない」というもので怪我がちなのも頷けた。「腐ることなく真面目にやっていましたね」と土居が振り返るように、浪人の間は国内トップレベルの格闘家らとともに汗を流しながら、広背筋や体幹や下半身を中心に鍛え上げた。それまでは投球時に肩や肘が疲れやすく、踏み出した左足の力も生かしきれていなかったが、そうした欠点が改善されていった。

 また、パーソナルトレーニングに来ていた企業の社長から人生訓を学んだり、世田谷学園の選手たちを教えながら自らも学ぶなど浪人生活は思いのほか充実したものだった。

今も変わらぬ幼い頃からの夢
 今季はNPB入りを目指して、独立リーグのルートインBCリーグでプレー。公式戦のマウンドは大学2年以来で実に5年ぶりだったが、春先は武蔵ヒートベアーズのリリーフエースとして大活躍を遂げ、球速もなんと151キロを計測した。ところが夏場に長時間のバス移動などでコンディショニングに苦労し失速。NPBへのラストアピールとなる秋に球威が下がり精彩を欠いてしまった。

 ドラフト会議前には2球団から調査書が届いたが、結果は指名漏れ。両球団が指名終了を示す「選択終了」が告げられると、安河内は悔し涙を止めることはできなかった。

 しばらくは無気力な状態が続いた。土居からは「親や周囲が賛成してくれていて、安河内も野球が好きなら続けてみたらどうだ」と背中を押したが、覚悟が決まらず一度は引退を決意。「今、野球を辞めてよかったと思えるように社会で活躍しよう」と考えていたが、各所に引退を報告する中で「アメリカに挑戦してみてはどうか?」と提案された。好奇心旺盛な安河内の心に火が再びついた。

 またBCリーグの事務所を訪れた際に、たまたま元日本テレビアナウンサーでタレントの上田まりえと出会う。上田がちょうどスポーツ選手のマネジメントなどをする会社を設立しようと考えていたこともあり、「ドゥ・ストレート株式会社」の契約第1号選手となった。

 現在は上田のサポートも受けてスポンサー集めやクラウドファンディングでの資金集めのための資料を作りながらトレーニングに励み、来年2月からのショーケース・トライアウトに向けた渡米へ準備を進めている。

 安河内には幼い頃からの夢がある。それは「1億円を稼ぐ」ことだ。福岡県に生まれた安河内は、幼い頃両親に連れられて、福岡ドームのオリックス対ダイエー戦を観戦。当時オリックスにいたイチローに熱狂する父に「この選手、すごいと?」と聞くと「俺の人生の何回分かの給料や」と返ってきた。子供心にすごいことだと思い、それも野球を始めたきっかけの1つだった。やるからにはトップレベルを目指す信念は変わることはない。

 アメリカに行くことで人間的にも成長ができることは、これまでの様々な出会いを経て確信できる。だからこそ少しでも長くアメリカでプレーがしたい。

「NPBのドラフトさえ漏れたのに」などネガティブな声も当然耳には入ってくるが「“お前には関係ねえよバーカ”って感じですよ」といたずらっぽく笑った。

「もちろんメジャーで投げている姿をイメージしてやるだけです。また、アメリカで暮らせばいろんな発見もあると思います。これまでより厳しい環境であるけれど、少しでも長く生活することが成長に繋がるし、そのためには活躍しないと成長できない。自分の求めている成長ができるようにしていきたいです」

 経歴だけを一見すると行き当たりばったりのように映るかもしれないが、変わらぬ信念や向上心・好奇心が、今も安河内を突き動かし続けている。

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