心動かす試合もう一度
勝負師たち
元3階級世界王者のプロボクサー八重樫 東 選手35
いつも最後と思ってリングに立っている。1年7か月前のあの時もそうだった。
2017年5月21日、東京・有明コロシアムで行われた国際ボクシング連盟(IBF)ライトフライ級の王座統一戦。3度目の防衛を目指し、臨んだが1回TKO負けを喫した。周りから「八重樫はもうダメだ」という声が聞こえた。終わりにしよう。ボクシングから心と体が離れた。練習をやめた。だが、「どうしても自分で納得できなかった」。だから再起を決めた。
4か月半のブランクを取り戻すのは大変だったが、充実していた。日々、ボクシングを
大切にするようになった。横浜駅に近い雑居ビルにある大橋ボクシングジム。11月、室内に張りつめた空気を切り裂くような息づかいとサンドバッグの鈍い音が響いていた。午前にウェートトレー二ング、夕方からジムで練習する生活を続ける。
いつオファーを受けてもいいように「常にキープの状態」を保つ。
王座陥落後、2階級上のス—パIフライ級に転向して迎えた8月の復帰第2戦は、世界ランカーとの打ち合いの末、7回TKO勝ちを収めた。
「修正の余地はあるが、この階級でやれる手応えがあっった」と自信を得た。
黒沢尻工高時代に始めたボクシングだが、ベテランといわれるようになって久しい。
しかし、年齢を言い訳にしないと決めている。「反応や感覚は変わるが、トレーニングでその下降線を抑えるやり方はある」と思っている。プロ入り後、ミニマム、フライ、ライトフライを制したが3度ともベルトを奪われ、そのたびに「もう一度」とファイテイングポーズを取ってきた。「修羅場をくぐってきた経験」も、今では〃武器〃になっている。
打たれても前へ前へと出る-。そんなファイトスタイルが見る者を熱くしてきた。
世間は4階級制覇を期待するが、あまり意識はしていない。
「たとえ負けても戦い方で人の心は動く。それがボクサー冥利に尽きる」。一つひと
つ言葉をかみしめるように語り、「もちろんプロだから結果は必要。その上で納得のいく試合をしたい」と継いだ。穏やかな目が一瞬、鋭くなった。
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