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THE PAGE 2016.09.05 06:00
井上尚弥、次戦はロマゴンではなくコンセプシオンとの統一戦へ
WBO世界スーパーフライ級王者、井上尚弥(23、大橋)が4日、故郷の神奈川県座間市で行われた3度目の防衛戦で同級1位のペッチバンボーン・ゴーキャットジム(31、タイ)を10ラウンド3分3秒にKOで下した。3週間前に腰を痛めていたという井上尚は、試合中にも右拳も痛める二重のハンディ。試練を乗り越え、KOで防衛に成功したのは王者の非凡さだったが、「こんなんじゃビッグマッチなどと言ってられない」と本人は大反省。
井上と大橋会長は、緊急渡米して日本時間の11日にロスで行われる無敗のローマン・ゴンザレス対カルロス・クアドラスとのWBC世界スーパーフライ級タイトル戦を観戦、その勝者との交渉を開始するという。ただ、年末に予定されている4度目の防衛戦は、河野公平を判定で下してWBA同級王座を統一したルイス・コンセプシオン(パナマ)との統一戦がターゲットになる。
「ジャブが速かった。見たことのないようなスピードだった」
試合後、タイの挑戦者が小さな声で言った。
何ラウンドで、どんな倒し方をするのか? この試合のテーマは、そこのはずだった。
チャンピオンは教科書に出てくるような左ジャブで、試合の主導権を握り、痛める危険性のある右拳は、様子を見るかのように、ボディから使い、単発で終わらずツー、スリーの瞬きする間もないコンビネーションでまとめて、挑戦者だけでなく会場全体を“ほおー”という感嘆符で包みこんだ。
左ジャブに上下の揺さぶり。堅くガードを固めたタイ人に、ほころびが出てくるのも時間の問題だった。
だが、井上尚のピッチが一向に上がらない。4ラウンドに入ると、右構えから左構えへスイッチをして見せた。「カードが堅かったので、どうすれば崩れるかを考えて、足を使ったり、接近戦をやってみたりした」。井上の説明は、こうだったが、明らかに右のパンチが出なくなった。5ラウンドには集中力を欠き、ロープ際で横を向いた時に、したたかな挑戦者に2発ヒットされ、右足の付け根に反則のブローも浴びた。6ラウンドには、痛めたナックル部分を避けるようにパンチの角度を変えて連打したが、それではダメージを与えることはできない。8ラウンドからは、もう腰が浮いてしまっていた。
実は、井上尚は2つのハンディを背負っていた。
試合後、大橋会長が「言い訳は尚弥の本意じゃないだろうが」とした上で暴露した。
「3週間前に腰を痛めてスパーができなくなった。調子が驚くほど良かったが、練習をやりすぎたのかもしれない。試合ではずっと手打ちになっていた」。そして序盤で古傷である右拳をまた痛めた。
5月のダビド・カルモアとの防衛戦でも試合中に右、左と拳を痛め判定にもつれこんでいた。
タイ人は「5ラウンドで(右拳を痛めたことに)気がついた」という。
ポイントでは圧勝していた。9ラウンドからは、足を使って逃げ切り体勢。それも裏事情を考えれば仕方がなかったが、10ラウンドにタイ人が、強引に前に出てインファイトを仕掛けてきた。
「ポイントで負けていたのはわかっていた。KOでないと勝てないと思ったが、最後まで井上のジャブが邪魔になった」。捨て身の攻撃である。不用意に井上が、2、3発パンチを浴びると闘争心に火がついた。
「倒してやろうと意識した」
痛めた拳に意思の力で麻酔をかけるようにラッシュ。最後は右ストレートを2発。よろけるように膝からダウンして尻餅をついた挑戦者は、立ち上がったが、もう前を向くことができなかった。
大橋会長が言う。
「いちかばちかで来た相手を受け止めてテンカウントを聞かせた。プロ魂を見せてもらった。ポイント差も開き、結果、KOとなったが、結果以上に苦しい試合だった」
KO勝利にも、井上自身、そして陣営のセコンド陣の誰一人として笑顔がなく。父で専属トレーナの井上真吾さんはリングに上がってこなかった。それほど絶対絶命のピンチだったのである。
解説席に座っていたロンドン五輪金メダリストで現ミドル級世界ランク上位の村田諒太が言う。
「自力のレベル、ボクシングの幅が違っていた。アクシデントがあっても、リスクを負わずに倒しにいって、それができるのは、よほどのレベルの差がないとできない。改めて強さを証明した」
この男の論理的解説に異論を挟む余地はなかった。
だが、全米のシビアなマーケットは「拳や腰を痛めていたのに凄い」とは評価してくれない。井上尚が、直接、そのリングサイドに乗り込むローマン・ゴンザレスvsカルロス・クアドラスの勝者との頂上決戦に挑むには、歴戦の名王者をあっという間に沈めたオマール・ナルバエス戦、ガードの上から打って破壊したワルリト・パレナス戦の衝撃的なKOシーンをもう一度、見せつけておかねばならない。
ロマゴンは、この試合でHBOとの契約が切れるが、インパクトのある勝ち方をすれば、大型の再契約が結ばれることが必至で、マッチメイクをHBOが主導するようになれば、なおさら、井上尚の商品価値をアップしておく必要がある。今のままでは現実として、まだ第一候補になるには苦しい。
大橋会長の構想では、年末に予定されている次のV4戦には、河野に圧勝したコンセプシオンとのWBO、WBAの統一戦が予定されている。しかし、そのコンセプシオンは「井上って誰だ? 試合の映像も見たことがないからコメントのしようがない」と、井上尚の存在を知らなかった。
「今日の出来がすべて。もっともっと練習しなければならないと思う」
井上尚は、そう語った。
コンディションと拳のアクシデントさえなければ、おそらく井上は、他のチャンピオンとは一線を引くような衝撃なKOシーンを見せてくれただろう。しかし「7、8割で打てば大丈夫。怪我しないように戦える」と、語っていた拳の怪我防止対策の効果は出なかった。ハードパンチャーが背負う永遠の宿命とも言えるが、こうなってくると、ロマゴンとの夢対決を語る前に、井上がいかに万全な状態で戦えるかの“内なる戦い”をどう克服するかが最大の壁になってくる。

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