sportiva 2016.09.10
村田諒太&香川照之が語る、
ボクシング「怒涛のビッグマッチ」4連発
9月のボクシング祭り@前編
2016年9月、世界中のボクシングファンが注目する「待望のビッグマッチ」が次々と行なわれる。9月10日(日本時間9月11日)は4階級制覇を目指すローマン・ゴンサレス(ニカラグア・29歳)と、3団体統一ミドル級王者ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン・34歳)が登場。そして9月17日(日本時間9月18日)には実力・人気ともに最高峰のサウス・アルバレス(メキシコ・26歳)、さらに9月24(日本時間9月25日)には3階級王者のホルヘ・リナレス(ベネズエラ・31歳)がリングに上がる。
井上尚弥との試合が待ち望まれるローマン・ゴンサレス
まずは9月10日に行なわれる2試合について、ロンドン五輪・金メダリストの村田諒太と、芸能界屈指のボクシング通で知られる俳優の香川照之氏に見どころを語ってもらった。
【WBC世界スーパーフライ級タイトルマッチ】
ローマン・ゴンサレスvs.カルロス・クアドラス
「パウンド・フォー・パウンド(体重差がない想定で全階級を通して最強の選手)」の呼び声高い、”ロマゴン”ことローマン・ゴンサレス。アマチュア時代は87戦無敗を誇り、2005年のプロデビュー後も45戦45勝(38KO)無敗。WBA世界ミニマム級、WBA世界ライトフライ級、WBC世界フライ級を制し、このタイトルマッチで4階級制覇を目指す。
その相手は2014年5月にWBCスーパーフライ級の王座を奪取後、現在6連続防衛中のカルロス・クアドラス(メキシコ・28歳)。こちらもプロデビュー後は36戦35勝(27KO)無敗1分と、一度も黒星を喫していない。
ロマゴンの最大の強みについて、村田はこう解説する。
「よどみのない波状攻撃。滑らかに、ずっとつながるような連打ですね。僕らがマネしようとすると、1回止まる”一時停止”があるんですけど、ロマゴンは水が流れるかのように連打が出続けるという強さですね」
一方、香川は「ローマン・ゴンサレスは本当に誰も止められない状態」と舌を巻く。
「ただ、ウエイトがひとつ上がる(フライ級からスーパーフライ級)ということが一番大きいので、クアドラスの潜在能力も含めて、最近のなかではもっとも拮抗した試合になると思います。
(ロマゴンは以前)ライトフライ級からフライ級に上げたあたりで、ボディワークとステップを緩くしながらも、潜在能力だけで(相手を)寄せつけないというのがあったので、彼がキャリア前半で持っていたような全般的なスピードだったり、パンチのキレだったりというのは、確実に失っていると思います。
しかし、いろんな選手とやる経験のなかで、『こう打ったらこうだ』という経験値はスピードを失っても上回っている気がするので、そういった意味では、クアドラスは出入りの激しい、1秒たりとも気を抜かない忙しいボクシングをすることによって、何か可能性がある気はします」
ズバリ、結末はどう予想するか?
「判定でゴンサレスだと思います。ロープをうまく使い、リングのいろんなポジションを利用しながら、今までの経験を使って対処していくと思います。徐々に差は出てくる。ゴンサレスのひとつの策がうまくいかなくて、クアドラスがそれを空転させ続けるというのは、ちょっと想像しがたいところもある。
ゴンサレスのあの雰囲気は、ジャッジが惚れますよ。1回スウェイ(※)してアッパーを吸い上げて、すぐまた外からボディを打ったりとか、そのコンビネーションを見るだけで、『これは本物』とジャッジを常に味方につけている選手。その意味では、判定でローマン・ゴンサレスだと思います」(香川)
※スウェイ=顔面へのパンチに対し、上体を後ろへ反らしてかわす防御テクニック。
村田も、「ロマゴンの勝ちは動かないかなと思います」としながらも、階級を上げた影響に言及する。
「(クアドラスは)ロマゴンに詰められて、上下に打ち上げられたら耐えられないんじゃないかな、というところはありますけど、ロマゴンが1回スーパーフライ級で調整試合をしたとき、あんまり動きにキレがなかったんですよね。
フライ級に上げたばっかりで、『スーパーフライ級で動きづらいのかな』という感じがあったので、今はスーパーフライ級でどういう身体を作るか、というところだと思う。クアドラスは動きが速いので、昔はガンガンいってましたけど、今は(相手のパンチを)さばくのがうまくなっているので、そこに対してロマゴンがどう対処するか、ロマゴンの動きがどうなっているかですね」
スーパーフライ級には、”怪物”と称される日本の井上尚弥(WBO世界王者・23歳)もいる。ロマゴンとのドリームマッチが実現すれば、どんな展開になるか? 村田はこう仮説を立てる。
「序盤に勝負をかけて井上選手のパンチが直撃すれば、ロマゴンも耐えられないと思います。ただ、中盤以降になって井上選手が疲れてきたら、ロマゴン有利でしょうね。シビれる試合になると思います」
香川も、「(井上の)猛烈なスピードとパンチ力は、ゴンサレスに泡を吹かせられる要素ではある。どうせなら、お互い無敗のままでやってほしい。2017年は『やり時』だと思います」と期待を寄せる。
「ロマゴンvs井上」のドリームマッチに希望をつなぐ意味でも、9月11日のこの一戦は見逃せない。
【WBC・IBF世界ミドル級タイトルマッチ】
ゲンナディ・ゴロフキンvs.ケル・ブルック
アネネ五輪・銀メダリスト(ミドル級75kg)のゲンナディ・ゴロフキンは、2006年5月のプロデビュー後、破竹の勢いでWBAミドル級王座を奪取し、すでに16度の防衛を果たしているスーパー王者。2014年にWBC、2015年にIBFの王座も獲得し、現在3団体の世界ミドル級統一王者として君臨している。
戦績は35戦35勝(32KO)無敗と、この階級ではもはや敵なし。そんなゴロフキンに挑戦状を叩きつけたのが、IBF世界ウェルター級王者のケン・ブルック(イギリス・30歳)だ。36戦36勝(25KO)無敗のウェルター級最強王者が、なんと2階級上げてミドル級絶対王者に挑む。
香川は、この無謀とも言える挑戦についてこう語る。
「歴史上、中量級における2階級アップというと、僕が人生で初めて出会ったのは、(1980年に)ロベルト・デュランが(ライト級からウェルター級に)2階級上げてシュガー・レイ・レナードに挑んだ試合。当時の1階級の重みは大きく、『上のヤツが絶対に勝つ』という時代でした。しかし、それを覆したデュランというのは、すごく印象に残っています。
その20年くらいあと、同じくライト級からウェルター級に挑戦したシェーン・モズリーがオスカー・デ・ラ・ホーヤに2勝するわけです。これも無謀だと思ったんですが、いずれも2階級上げたほうが勝っています。最近でいうと、(ライトフライ級からスーパーフライ級に2階級上げた)井上君がオマール・ナルバエスを粉砕している。
2階級上げると、意外に下のヤツが勝つ……というのは頭によぎるんですが、今回に関しては番狂わせはないと思います。もし番狂わせがあるとすれば、ブルックは36分間、アウトボクシングを続けるしかないと思うんです。とにかく、相手より先に当てるということだと思います」
村田はこの一戦の決定を耳にしたとき、「かっこいいと思いました」と、ブルックの男気を称える。では、ブルックに勝機があるとすれば、どんな展開においてか?
「動く、(パンチを)もらわない、スピードで勝つ。それでゴロフキンがイラつく、振り回す、スタミナが切れる。それでポイントアウト(※)でしょうね。ただ、(ブルックが)勝つっていう姿は、ちょっと想像しにくいですよね。
※ポイントアウト=対戦相手に明確な点差をつけ、規定のラウンドをフルで戦ったうえ、判定による勝利を得ること。
ゴロフキンはたぶん、ガンガン振って詰めるのではなくて、ジャブを軸に詰めると思います。動く相手に振り回してしまうと、空振ってスタミナが切れるっていうこともありますが、そのあたりを冷静になって戦えば、ゴロフキンの勝ちは動かないと思いますね。終盤のTKOかなと思います。ただ、そんなに簡単にはいかない。ここ最近の試合では、一番苦戦すると思います」
やはり、ゴロフキンの勝利は揺るがないのか――。もし、ゴロフキンに油断が生じ、ブルックがその隙を突くとすれば? 香川はこう語る。
「目に見えた油断はないと思うのですが、人間ですから、普通だったらどこかで自重する、あるいは1発スウェイバックするところをグッと前に行ったときに、もしかしたらブルックのカウンターがどこかに当たる可能性はあるかもしれません。もし何かが起こるとすると、テンプルへのパンチ。アゴではない気がします。
逆に言うと、(ブルックの勝機はゴロフキンの)油断しかないのかなという気がします。ここのところのゴロフキンは全然激戦もなく、風がそよそよ吹いているような完璧な感じなので、ブルックにはひとつ泡を吹かせてほしいなとは思います」
試合が行なわれるのは、ロンドンの「O2アリーナ」。地元の大声援を背にしたブルックは、磐石の王者を相手に奇跡を起こせるか?
(後編に続く)
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