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フシ穴の眼 〜スポーツ疾風怒濤編〜 2018年05月11日
壁を越える人々【Sample No.2】〜シーサケット・ソールンビサイ(31歳)ゴミ漁りからアジアの英雄へ③
シーサケット・ソールンビサイという暴走車には、バックペダルは付いていません。ブレーキペダルすら付いていません。
リング誌6月号「FIGHT ROUNDUP」より。軽量級もアジアもいまだ関心が低い米国ですが、その中ではシーサケットの露出は図抜けています。
峻厳な山頂を征服したクライマーには、遠く離れた下界を見ながら至福の時間を味わう権利があります。
デッドヒートを制してゴールテープを切ったランナーには、ゆっくりとウィンイングランを楽しむ権利があります。
重い水を激しくかき続けるスイマーには、新鮮な酸素を取り込む息継ぎが必要です。
同じように、立て続けの過酷な大一番に勝利したボクサーもまた、次の試合くらいは与し易い相手を選びたいものです。
WBCのマウリシオ・スライマン会長は2月10日「2017年に偉大なパフォーマンスを見せてくれたシーサケットに『次の試合は15位以内のコンテンダーから好きな相手を選んで構わない』と伝えたが、勇気あるタイ人はチェリーピック(雑魚狩り)を嫌い、ファン・フランシスコ・エストラーダとの再戦を熱望した」と、そのファイターの心意気を賞賛しました。
このマウリシオの発言も父親譲りで馬鹿丸出しと言うか、それ言ったらダメでしょうって話です。
「雑魚相手に楽に勝っていいですよ」って言ってるんですから。辰吉丈一郎が「(王者に返り咲けたのは)スライマン会長のおかげ」と泣き、長谷川陣営が「WBCには恩義がある」と大っぴらに発言したことからも、みんなわかってますけど…。
クリスチャーノ・ロナウドが「自分の表彰はFIFA会長のおかげ」とか、日本代表監督が「FIFAには恩義がある」とか発言したら、ヤバイですね。ところが、ボクシングの世界ではそういうのは聞き流すのが、大人のルールです。
タイの英雄は「エストラーダと彼のファンが初戦は負けていないと言い張っているから再戦の機会を作る。エストラーダは強くて油断ができないが、強い相手と戦うことにこそ意味がある。弱い挑戦者を選んで戦っていたら、結局自分が落ちぶれていくだけ」と、選択の理由を答えています。
シーサケットは、大人のルールを拒んだわけです。「俺の活躍とマウリシオ会長とは何の関係もねぇ!」「WBCには何の恩義もねぇ!」と拒んだのです。
全ての日本人の世界王者にとって、これほど耳の痛いコメントはありません。日本人世界王者は、100%チェリーピッカーです。立て続けに強豪を選ぶことはありません。亀田も井上も村田も、間違いなく、ぬかりなく、必ず弱い相手と戦います。
弱い相手ばかりと戦っていると、自分の能力も錆び落ちてしまうというのに。
リオネル・メッシやウサイン・ボルトが、日本に生まれていたら彼らの才能は、極東の島国では傑出しても、世界では埋もれていたでしょう。
どんな素晴らしい刀でも、豆腐ばかり切っていては名刀には昇華しません。豆腐なら美しく斬り落とす、豆腐専用の刀になります。そして、焼き豆腐か油揚げを切ろうとした時には、まさかの刃こぼれを起こしてしまうのです。
これまで、そんな〝名刀候補〟を何人見てきたことでしょうか。この30年、名刀に完成したボクサーはただの一人もいません。悲劇です。
正直「パッキャオやシーサケットを見習え」なんて思いません。そんな必要はありません。彼らとは「血と生い立ちと環境」が違いすぎます。
彼らは、本物のハングリーだけをエネルギーに地獄の底から這い上がってきた鬼です。
日本人には日本人の流儀があります。恵まれた環境の中で、栄光を渇望する精神的なハングリーを研ぎ澄まして、人間として鬼に勝って頂点を目指すのです。
話変わって…「何を残酷なことを言うんだ」と責められるかもしれませんが、シーサケットvs八重樫東の究極の〝リマッチ〟は実現したら、両者の機縁を考えると米国でも相当な盛り上がりを見せるはずです。
八重樫もまた、シーサケットほどではないにしても軽量級のビッグネームです。
軽量級のスターに登り詰めたシーサケットが、八重樫の咬ませ犬としてリングに上がった2009年のデビュー戦から9年。この充実した時間の中で二人は、世界中のボクシングマニアから「激闘王」と「感動王者」と認められました。
バックペダルを踏まないシーサケットが、こんなノスタルジックなリマッチなんて考えもしないでしょうから、これは脳内のリングでだけ実現できる妄想試合です。
ちなみに私の脳内では、初戦と全く同じラウンド同じタイムでのTKO。立場が逆転した今回は、咬ませ犬が王者に噛みつき、大番狂わせを起こします。
まあ、それにしてもシーサケットは凄いです、尊敬です。
経済大国日本のボクシング界では、大手ジムのエースが咬ませ犬からノシ上がるのはありえませんが、弱小ジムや、大手でも二番手以下のボクサーにはチャンスはあります。
木村翔には、日本のシーサケットになって欲しいですね!
コメント
3. tan 2018年05月12日 06:45
内山のようにドメスティックなキャリアを積んで初めてその体系の外にいる選手にチャンピオンレベルで遭遇しないように、そしてその惨敗を経験とかいう軽々しい言葉で流さないように
八重樫のように勝算を考えず名目・ルール上正しい格上相手に連戦して、そして格付け通りの結果を出し続けてあっという間に体を壊して可能性を無駄にしないように
したいものですね
さらに申し上げるなら西岡のように正しい手続きを踏んで満を辞してて挑んだ対戦ではなから勝算を感じられない試合をするのなら、母国の選手のファン以外誰も対戦内容に満足できないような試合をするのなら王座を返上する、余裕があるならコットがgggにしたようにみかじめ料を渡すような謙虚さもあるといいと思います そしてそういう手続きを踏んだ選手相手に逃げたとかいう侮辱を平気でするファンの民度も改善が必要かと
個人的には山中はモレノ1でジモハンやらかしたことを除けばキャリアに不満はないでしょうし、その彼がベガスにいけないのなら単に需要がないだけであり、むしろ日本が海外勢にとってのアメリカになる必要性を感じます
2. tanutan 2018年05月11日 19:14
お読みいただきありがとうございます。
おっしゃる通り名刀は最初から名刀なのかもしれませんが、シーサケットのような進化もありますしね。もちろんタラレバの推定で語られる時点で、アスリートとしてはそこまでですが…井上尚弥の刃が本物かどうか25日は審判の日になりそうです。
1. tanutan 2018年05月11日 18:57
エストラーダとの再戦にはあまり興味がわかないです。今のSFで面白そうなのはアンカハスくらいですかね。
名刀なら固いものばかり切り続けた物より柔らかい物を切り続けた方が刃こぼれ(怪我)が少なくて強いと思いますよ。
初めて固いものを切ろうとして刃こぼれしたとすれば、それは名刀では無かったということでしょう。


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