2018年4月16日月曜日

この冬に夢が夢でなくなる瞬間

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THE PAGE 2018.04.16 07:00

TKOで初防衛した村田諒太がゴロフキンに「勝つ見込みあり」とあの人が…

プロボクシングのダブル世界戦が15日、横浜アリーナで1万1000人ものファンを集めて行われWBA世界ミドル級タイトルマッチでは、王者の村田諒太(32、帝拳)が、同級6位のエマヌエーレ・ブランダムラ(38、イタリア)に8回、TKO勝ちした。ミドル級での日本人の防衛成功は初。試合後、世界的プロモーターのトップランク社、ボブ・アラム氏は、改めてゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)との東京ドーム決戦構想をさらに具体的に明らかにした。

村田諒太の試合後インタビューは面白い。
 機知に富んでおり、退屈させず、そこにちょっとした哲学を挟み込んできたりして、ある意味、すでに、そこだけは、世界のイチローレベルである。
 この日は、右ストレートの修正の話や、調子のいい悪いの自己評価、そして王者になったことで反動として出てきたハングリーさの欠如をどう克服したかというような話をした。イチローは、お抱え記者2人にしかコメントしないが、村田は、たかだかネット記者にまで、わざわざ質問の機会をくれる。
 
 慎重にスタートした序盤の自己解説はこうだった。
「1、2ラウンドはポイントいらない。序盤で右をふってくる選手。いい体もしている。あの体で100パーセントの力で振ってくる右を序盤にもらうとミドル級ではダメージがたまる。それを序盤にもらうことは賢くない選択。あの右をもらわない、ということだけを考えていた」
 立ち上がりからジャブがよかった。
「思ったよりジャブが良く当たった」
 そして右のボディストレートというリスクの少ないコンビネーションで主導権を握る。2ラウンドに早くも“宝刀”の右ストレートを打ち込むと、ヒット&アウェーに活路を見出そうとしていたイタリア人のペースはディフェンス一辺倒になった。
 リングに上がってからの調子のいい悪いは、もちろんボクサーにはある。
「僕はスタンスとして、ゴングが鳴ってから、いいとか、悪いとか、考えない。その場で何ができるかを考えるだけ。ボクシングは相手があってのもの。対人競技において調子のいい悪いは簡単にいえない」
 つまり、村田が言いたかったのは、状況に応じた最善の選択を続ける、ということなのだろう。 

村田は、このラウンドで、右ストレートの異常に気がついたという。
「右ストレートのタイミングが体が開いているって感じだったんです。その右を修正できた。野球でもバッターのスイングのフォームがタイミング上合っていないってあるでしょう。あれと一緒です」

 6ラウンドになって、右のストレートの精度が高まった。少しボディに散らしたこともブランダムラの注意力を散漫にさせたのかもしれない。右ストレートのつるべうちにロープに吹っ飛ぶシーンも。だが、村田同様堅いガードは崩さずなんとか耐え切った。フィニッシュは8ラウンドだった。
 ドカンという右ストレートを2発。ブランダムラの体が流れるようにロープを背負わせると、ガードごと吹き飛ばすような右をスイングした。「これまでと違う右。映像を見て、こんな右を打ったのかと思った」
 残り16秒。挑戦者は必死に立ち上がろうとしていたが、コーナーのトレーナー陣は、先に両手をふって降参していた。

「取るより難しい」の格言がある初防衛戦をTKOで飾った。

「ほっとした。エンダムの1、2が(KOシーンはなかったので)ここで倒さないと、やっぱたいしたことないじゃん、と思われる。そうならずに、ほっとした。結果でどうや、こうやと言われますからね。ノックアウトという形で期待にも応えられた。がっかりさせなかったのがよかったかも」

 日本人で初めてミドル級の世界王者となった竹原慎二も初防衛戦はクリアできなかった。
 なぜ初防衛は難しいと言われるのか。

 村田の考える一般論はこうだ。
「チャンピオンとしてリングに上がるプレッシャーもある。研究される立場もある。満足感が出て、ハングリーさを失う。いろんな要素がある。複数の理由があるんだろうけど、どれにあてはまるかは、選手によって違う」。ひとつ抜けているのが、多くのボクサーが、初防衛戦では、オプションの関係でランキング1位との指名試合を命じられることにある。これらの条件下、最強の挑戦者と戦えば負ける確率も上がる。だが、村田の場合、今回は、先を見据えて、大きなリスクのない相手を選んだ。
 村田にあてはまる理由は内なる敵の存在だった。
「僕にとってプレッシャーはある。満足心はあまりない。なんかわからんけれど、なんかが難しい」
 この試合をESPNが全米に生放送した。強さを見せつけ、世界へ発信しなければならないというプレッシャーもあっただろうが、一番の敵は、ハングリーさの欠如だった。
「ハングリーさがなくなっている気がするんです」
 アッサン・エンダムとの語り継がれるような2試合を経て、ミドル級のベルトを巻いた村田は、ぽろっと、そういう心境を口に出したことがある。
 金メダルに続く世界のベルトの達成感。周囲の人々への恩返しができたという安堵感。メンタル面でのハングリーさがなくなったと同時に、スポンサーが13社もつき、日本のボクシング史上最高に稼ぐ男となった。待遇面でも本当にハングリーではなくなっている。
 まさに見えない敵である。
 だが、村田は、初防衛戦に、その翳りを見せなかった。
 なぜか?

「やらなきゃいけないからです。他に僕がやって輝ける場所や、ベストのやりたい仕事が、あれば、そっちへ行きます。でも、今、僕にとってここがベストなんです。これ以外の選択肢がないんです。そこにいろんなことをモチベーションとしてつけたしているわけです。選択肢が無駄に多くあるなら迷いますが、男として、この道を進んでいくだけなんです」
 実に答えはシンプルだった。ただ、このシンプルを追求することが、どれほど大変か。
 ただ、ここから先は、「メンタル・ハングリー」とは縁遠い世界になってくる。
 戦うべき相手が明確になってきた。リング上で村田は「ゴロフキン」の名前をハッキリと告げた。
 村田を祝福したトップランク社のボブ・アラム氏は、村田vsゴロフキンの東京ドーム構想をさらに具体的に明らかにした。
「マイク・タイソンが東京ドームで試合をしたように日本の日曜の午前中、アメリカ東海岸の土曜のプライムタイムに合わせて、試合開始時間を設定すれば、日本では何万人もの人が集まり、アメリカではPPVで放映できる。まだ最終結論は出ていないが、おそらくカネロはサスペンデッドとなり年内にゴロフキン対カネロの試合はできない。そうなると、年内にビッグマッチを求めているゴロフキンは、この話に乗ってくる」

 非常にロジカルなビジネス計画だ。しかも、禁止薬物の陽性反応により、5月5日の再戦が流れたサウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)とゴロフキンの頂上対決が、再度まとまるには時間がかかると見ており、そうなると、ゴロフキンは、このビッグビジネスに飛びついてくるだろうという算段だ。
「私は勝つ見込みのない試合など計画しない。村田は体格でゴロフキンを上回っている」
 数々の名勝負をプロモートしてきたアラム氏が、そこまで言う。

 そして、東京ドーム決戦は、複数の世界タイトル戦を組む予定で、アラム氏は、そこに5月に3階級目となるバンタム王座に挑戦する井上尚弥(大橋)を加えたい意向までを明らかにした。
 ただ、村田は、その東京ドーム決戦の前に9月か10月に予定しているラスベガスでの防衛戦をクリアしなければならない。ゴロフキン戦でPPVを売るには、アメリカで村田の顔を売る必要がある。アラム氏は、ロンドン五輪の決勝で村田に敗れたファルカン(ブラジル)を当てたい考えだが、本田明彦会長は、ネームバリューを上げるためには、アメリカ人と戦わせたいという考えを持っている。
「ゴロフキンとは早いうちにやらせたい」ともいう。
 本田会長は、村田の心技体が充実したタイミングは今だと見ている。
 この冬に夢が夢でなくなる瞬間を目撃できるかもしれない。

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