2014年9月7日日曜日

称賛に値する男

http://sankei.jp.msn.com/sports/news/140907/mrt14090718000002-n1.htm
産経ニュース 2014.9.7 18:00
「生きる伝説」に挑んだ31歳・八重樫 称賛に値する男の信念
 世界王座の認定団体が4つある今のボクシング界。穴のある王者からベルトを奪い、たやすい挑戦者を選んで防衛回数を重ねることもできるのが現実だ。そんな“時代”にあって、八重樫東(大橋)はあえて強者とぶつかり、壮絶に散った。敗れこそしたが、“激闘王”の生きざまを貫いた姿は称賛に値する。
敵の小さな穴を見つける
 「強い人に勝ちたい」という信念から、世界ボクシング評議会(WBC)フライ級王者だった八重樫は、ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)を4度目の防衛をかけた挑戦者に選んだ。
 元世界2階級制覇王者で39戦全勝33KOで誰もが避けて通る屈指の強豪。八重樫自身「対策や作戦を考えたが、やっぱり強い。怖いですよ。自分のやられている姿を想像するし、生命の危機を感じる。自分の子供はまだ小さいですし。小さな小さな穴を探して、それを突破口にする」と戦前から悲痛な覚悟を示していた。
 対戦を組んだ所属ジムの大橋秀行会長は、WBCミニマム級王座の地位にあった現役時代、最強といわれたリカルド・ロペス(メキシコ)の挑戦を受け、敗れた。
 勝ち負けよりも大切なことを知る大橋会長は「生きる伝説と戦える八重樫は幸せ。同じ時代に伝説がいて、それと戦わない方がおかしい」とした上で、「伝説と戦った男と伝説に勝った男は全然違う。八重樫には伝説に勝った男になってほしい」と実感のこもった言葉で期待をかけていた。
「肉を切らせて骨を断つ」
 八重樫はこれまでもいばらの道を歩んできた。プロ17戦目にして、世界ボクシング協会(WBA)ミニマム級王座を獲得すると、安易に防衛を重ねることはよしとしなかった。2012年6月、WBC同級王座の井岡一翔(井岡)との統一戦に臨んだ。日本人同士で初の両団体の王座統一戦だった。
 井岡優勢の声が多い中、結果は1~2ポイント差の判定負け。激闘を演じ、「ベルトはなくなったが、それでもいいと思って勝負をかけた。またイチからやり直せばいいんです」と試合直後の控室で巻き返しを誓った。
 自らの言葉を裏切ることはなかった。それから1年弱で、学生時代に負け続けていた五十嵐俊幸(帝拳)からフライ級世界王座を奪取。3度の防衛を重ね、満を持して「ロマゴン」と戦うことを決めた。
 攻守両面で隙のない相手に対し、打ち合うことは避けられないと判断し、長期計画で強打に耐えうる体づくりに励んできた。ダンベルやスクワットで地道に鍛え、いつしか肩やふくらはぎはたくましく盛り上がり、腹筋はきれいに割れた。土居進トレーナーは「肉を切らせて骨を断つ。芯を外せば相手のパンチに耐えられるはず」と成長を実感していた。
激しい打ち合いの末に…
 舞台は代々木体育館。5日興行のメーン試合。相手は想像以上の“怪物”だった。1回は足を使って距離を置き、左ジャブで探った。しかし、スピード、キレが抜群の挑戦者の力を肌で感じ、「この闘いは続けられない」と覚悟を決めた。
 2回からは向かい合って、激しい打ち合いを演じた。1発打てば、3、4、5発と返してくる。「パンチは硬いし、技術としても完成したモノがある。攻撃に目を奪われがちだが、ディフェンスもしっかりしている」と勝機を見いだすことができない。
 3回。左フックでダウンを喫し、いつしか両まぶたは腫れ上がった。しかし、闘争心が衰えることはなかった。何発殴られても立ち向かっていった。膝から崩れそうになっても「まだ可能性はある。意識がある限り試合は続ける」と心が折れることはなかった。
 試合を止めたのは主審。9回、2度目のダウンを喫すると、試合続行は不可能と判断された。会場のファンから惜しみない声援が送られる中、激闘を演じ抜いた両者は健闘をたたえ合った。
 人生初のKO負けを喫した直後のリング場では「負けたのにインタビューに答えてすいません。やっぱりローマン・ゴンサレス選手は強かった。めっちゃ怖かったです」とけなげに語っていたが、控室に戻ると表情が変わった。まな娘を抱きしめると、涙をこらえることはできなかった。タオルで目頭を押さえながら、「これまで試合に負けて涙を流すことはなかったが、今回は…。悔しい」と漏らした。
失敗と挫折をバネに
 挑戦したことに悔いはないが、「戦ったからエライとかではなく、プロは勝たないと何にもならない」と競技者の矜持を示した。とはいえ、このまま終わるつもりもない。「僕は無敗とは違う。何回も負けているし。何事も失敗とか挫折とかを経験として、これからまだあるかもしれないボクシング人生に生かせれば」と前を向いた。
 大橋会長も「これがボクシング。強い人と戦うからこういう試合になる。負けても八重樫の名前はむしろ上がった」とかばい、「階級を変えて、3階級制覇という選択肢もある」と今後に期待を込めた。
 翌日午後の一夜明け会見に両目を腫らした八重樫はすがすがしい表情であらわれた。「敗者に語る言葉はありませんよ」と謙遜しつつも、改めて再起を誓った。
 「30歳を過ぎても、まだやれる僕らの世代の仲間がいる。どこにはい上がれるかはまだわからないが、方向性が決まったら気持ちはつくれる。自分なんてまだまだ頑張らないといけない」
 31歳。“雑草”は踏まれて踏まれてもしおれることはない。

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