2014年11月13日木曜日

その2

http://urx.nu/dXob
10papaのボクシングブログ  2014-11-08 23:19:16
八重樫東について(その2)~逃げる男たち~
前回は、世界王者奪取に失敗し、地道に復活の道を歩んでいた八重樫選手の前に、ローマン・ゴンサレスや井岡一翔といった大物達が次々とチャンピオンを奪取していくところまでを説明しました。
ローマン・ゴンサレス、井岡一翔、この2人の選手が、八重樫選手のボクシング人生のキーマンとなっていきますので、以後覚えておいてください。
さて、そんな八重樫選手も、前回の失敗から4年の月日を経て、再び世界へのチャンスがまわってきます。
相手はタイのポンサワン・ポープラムック選手。
故障も多く一時は引退も考えた八重樫選手でしたが、激しい打ち合いの末、このチャンス見事モノにして、遂にWBA世界ミニマム級チャンピオンの座を獲得します。
しかし、苦労の末やっと手にした世界タイトルですが、所属ジムの大橋会長は、王座を獲得したその日の会見で昇天プランを立ち上げます。
なんと、WBC世界ミニマム級チャンピオンの井岡一翔選手との、WBA/WBC統一戦のの構想を発表したのです。
まず日本人チャンピオン同士の統一戦は、国内のチャンピオンの潰し合いになるわけで、かつて一度も実施されたことがありません。
加えて井岡選手は、前回説明した通り、アマチュア高校6冠の実績を引っさげ、デビュー7戦目で世界王者となった、将来日本のボクシング界を背負って立つと言われている逸材です。
当時、ローマン・ゴンサレス選手は、すでにミニマム級王座を返上し、1階級上のライトフライ級王者に君臨していましたので、恐らくこの時点のミニマム級では最も危険でリスクの高い相手です。
実際、試合前の予想も、約80%が井岡一翔の勝利を予想していましたし、苦労して王座を獲得した八重樫選手にとっては、いきなり過酷すぎる試練でしょう。
日本人チャンピオン同士の潰し合いとなる王座統一戦。しかも不利と言われる選手を、普通はチャンピオンになった最初の対戦相手としてはなかなか選びません。
しかし、これは世間に面白い試合と提供したいという大橋会長がの思いと、八重樫選手の男気がそうさせたのでしょう。
もちろん、この試合の実現に協力した井岡陣営の英断も忘れてはなりません。
この日本初のWBA/WBC王座統一戦は、201 2年6月20日に実現しました。
試合は、両チャンピオンのプライドが激しくぶつかりあう素晴らしい試合となり、結果は、井岡一翔選手が僅差の判定勝ちで日本初のWBA/WBC統一王者になりました。
敗れた八重樫選手は井岡選手のパンチを受け、両目がふさがり、ホラー映画のような顔になりましたが、それでも前に出続け打ち合う姿が試合を盛り上げました。
今や、彼の試合は毎回激戦を繰り返すことから、「激闘王」のニックネームが付いています。
テレビの視聴率も関東地区で平均18.2%という近年希に見る高視聴率をマークし、「主役は井岡君」と自ら述べていた八重樫選手の世間の認知度もかなり上がったようです。
敗れて無冠となった八重樫選手は再び復活へ向け歩みだし、勝った井岡選手も減量苦等の理由によりこの2つの王座を返上し、上の階級へ目を向け更なるステップを目指していきます。
結局、この試合をした両者からベルトは離れていくのですが、この試合が組まれたこと自体に大きな意味があるといえるでしょう。
さて、ここで少し八重樫選手の話題から離れ、井岡一翔選手のその後について説明します。
井岡選手は、ミニマム級のタイトルを返上後、すぐに1階級上のWBAライトフライ級の王座決定戦に挑戦し、デビュー11戦目という早さで2階級制覇を達成します。
しかし、この王座獲得劇、元々チャンピオンだったローマン・ゴンサレス選手がスーパー王者に昇格したことによる王座決定戦であり、その経緯に少々ミソがついております。
どういう事か、もう少し詳しく説明します。
まず、世界ボクシング協会(以下、WBA)というボクシング団体は、スーパー王者と言うちょっとおかしな制度があります。
通常世界チャンピオンは各階級に一人ずつ設定されますが、WBAだけはちょっと違います。
正規のチャンピオンが防衛回数を重ねたり、他団体との統一チャンピオンになるなど、特に実績をあげた場合、スーパーチャンピオンという一段上の位に昇格するのです。
そしてスーパーチャンピオンが誕生すると、空席となった正規チャンピオンの座をめぐってタイトルマッチが行われます。
そのため、正規チャンピオンとその一段上のスーパーチャンピオンと 、2人のチャンピオンが存在することになり、それぞれが防衛戦を行うことになります。
まあ、そんなおかしな制度です。
ローマンゴンザレス選手もWBAライトフライ級の正規王者でしたが、5度目の防衛に成功すると、スーパー王者に昇格しました。
これと同時に、空位になった正規王者の席を争い、転級後ランキング2位にあがった井岡選手とランキング5位のホセ・ロドリゲス選手との、王座決定戦が決まります。
また、この試合の勝者は、試合後90日以内にスーパー王者のローマン・ゴンサレスと対戦し、王座統一戦を行うことも義務付けられていました。
これ、よく分からないのが、ローマン・ゴンサレスをスーパー王者に昇格させ、新たに正規王者を認定したにも関わらず、90日以内に王座統一戦を行い、2人いたチャンピオンを再び1人に統一する訳です。
じゃあ正規王座決定戦は、チャンピオン決定戦ではなくて、ローマン・ゴンサレスへの挑戦者決定戦でいいんじゃないの?
と思ってしまうのですが、そこはオトナの事情もあるでしょうし、WBAが決めたことなので、しかたありません。
井岡選手が無事、王者決定戦に勝利しチャンピオンになれば、次はあのローマン・ゴンサレスとの試合が控えており、ファンとしては楽しみが増えるわけです。
しかし、さらに事態をおかしくしてしまったのが、試合後の井岡陣営の対応です。
みごと王者決定戦に勝利し2階級制覇を達成した井岡選手ですが 、次戦で行われるはずのローマン・ゴンサレスとの試合を前に、井岡サイドがWBAやローマン・ゴンサレス側と調整を図り、この試合を中止にしてしまったのです。
当初はただの延期かな?と思っていたのですが、井岡選手はその後、まるでローマン・ゴンサレスなんてどこにも居なかったかのように、WBAライトフライ級チャンピオンとして、他の選手との防衛戦を2回、3回と続けていったのです。
あれれ??
この手口、どこかで聞いたことありませんか?
そうです。まさに亀田兄弟の戦法です。
ビッグマウスのわりに、強豪との対戦は徹底的に避け、網の目をくぐり抜けるようにしてチャンピオンの座を手に入れ、その後も弱そうな相手を選んで防衛記録を伸ばしていくという。。。
このようなファンをないがしろにしたマッチメイクは、亀田兄弟で懲り懲りだ、というボクシングファンが多いため、井岡陣営のこのような動きにも当然批判の声があがります。
加えて、とうとうローマン・ゴンサレスと戦うことなく、さらに階級を上げ、IBF世界フライ級タイトルに挑戦しますが、判定負けを喫してしまったこともあり、井岡選手の株は一気に落ちてしまうのです。
一時は日本ボクシング界のエースと黙されていた井岡選手ですが、軽量級のトップ戦線からは離脱していきます。
一方、ローマン・ゴンサレス選手はというと、井岡選手に押し出される形で、WBAライトフライ級スーパー王者に昇格しますが、その後、挑戦者は現れず、防衛戦を一切行うことはありませんでした。
対戦相手が現れなかったのは、正規チャンピオン(井岡)、スーパーチャンピオン(ゴンサレス)、どちらに勝ってもチャンピオンなら、怪物ゴンサレスより井岡選手を選びたかったからかもしれませんね。
結局、ローマン・ゴンサレス選手は、フライ級に転向し3階級制覇を目指す為にWBA世界ライトフライ級スーパー王座を返上してしまいます。
最終的には転向後のフライ級でもランキング1位まで上り詰めますが、プロアマ含め120戦無敗の怪物の挑戦と受けてくれるチャンピオンは現れませんでした。
ライトフライ級でスーパー王者昇格後、2年間はノンタイトル戦を消化するのみ。
あまりに強すぎるが故、事実上、トップ戦線から干されていたというわけです。
八重樫選手が挑戦を受けるまでは…。
さて、そろそろ話を八重樫選手に戻しましょう。
井岡選手に敗れ、王座陥落してから一年、再び世界挑戦のチャンスが訪れます。
相手は2階級上のWBC世界フライ級チャンピオン、五十嵐俊幸選手です。
実は八重樫選手はアマチュア時代、この五十嵐選手と4度対戦しており、4連敗を喫している分の悪い相手です。
こんな感じで大橋ジムのマッチメイクはいつも強気のガチンコ路線が多いのですが、試合は八重樫選手が序盤から前に出て試合を優位に進め、3-0の判定勝ちで、みごと2階級制覇と達成してしまうのです。
そしてこのタイトルも順調に防衛戦を重ね、4度目の防衛戦の相手が決まった矢先、またまた策士の大橋会長が驚きのプランを発表します。
「この試合に勝ったら、次はローマン・ゴンザレス選手と戦います!!」
正直、これにはボクシング関係者も驚きました。
あの、誰もが避ける怪物ローマン・ゴンザレスと戦うと言うのですから。
もはや八重樫陣営に「タイトルと守る」という考えはありません。
常に挑戦をやめず、ファンに面白い試合を提供することが優先されているようです。
申し訳ないですが、この時、ボクシングファン、関係者、本人含め、誰も八重樫選手がゴンサレス選手に勝つイメージは想像できなかったのではないで しょうか。
無事4度目の防衛戦をクリアし、ローマン・ゴンザレス選手との試合が正式決定した八重樫選手も、最初はこんな発言です。
「正直やりたくはなかったけど、決まったからにはやるしかない」
「もしかしたら勝てるかもしれない。」
さらに八重樫選手本人はおろか、対戦を発表した大橋会長ですら、試合が近づいていくにも関わらず、こんな弱気な発言ばかりなのです。
「試合を見て研究しているが、相手の弱点が見つからない。」
「勝つには相手が体調を崩すしか思いつかない。」
「これは人間が神に挑戦する戦いだ。」
「大切なのは誰に勝つかではなく、誰と戦って負けるかだ。」
まさに背水の陣。特攻隊の精神で試合にのぞむ八重樫陣営。
しかし、八重樫選手はどうしてこんなリスクを冒してまで、ローマン・ゴンサレスとの試合を選んだのでしょうか。
それは、「強い相手に勝ってこそ本物のチャンピオンだ。」という思いです。
これはチャンピオンとしてのプライドと言ってもよいでしょう。
そしてもう一つは「自分の周りには強い相手と戦いたくても戦えない選手がいる。
自分は強い相手と戦えて幸せなんだ。」という、チャレンジャーとしての思いです。
確かに近年、日本でも数多くの世界チャンピオンが誕生しました。
しかし、ボクシング団体が増え、チャンピオンも乱立傾向にあるため、世界チャンピオンといえどアメリカなどに進出しない限り、本物のトップ中のトップ選手とは戦うチャンスはなかなかありません。
現在日本人ボクサーのエースである、WBA世界スーパーフェザー級チャンピオン内山高志選手は防衛回数8回、WBC世界バンタム級チャンピオンの山中慎介選手は防衛回数7回を数えていますが、世界のトップ中のトップ選手とのビッグマッチは未だ実現できずにいます。
ここ数年で世界のトップ中のトップ選手と戦った日本人ボクサーは、ノニト・ドネアと戦った西岡利晃選手、ゲンナジー・ゴロフキンと戦った石田順裕選手くらいでしょう。
そして彼らがその試合を実現するために、どれほどの実績と苦労を伴ったかは、このブログでも以前紹介させていただいた通りです。
本物のボクサーであれば、最強の男と戦えること、これはボクサー冥利に尽きる話なのです。
しかし相変わらず言いだしっぺの大橋会長は弱気。
「八重樫には、ゴングが鳴ったら走って逃げるように指示しています。」
試合をせずにローマン・ゴンサレスから逃げる井岡一翔…。
試合が始まってからローマン・ゴンサレスから逃げる八重樫東…。
さてさて、この試合、どうなってしまうのでしょうか。

0 件のコメント:

コメントを投稿